週刊ダイヤモンド 2000年 8月12・19日合併号
エリートネットワーク代表取締役 松井 隆
営業とは、御用聞きに始まって、御用聞きに終わる。有能な御用聞きは顧客に可愛がられ、信頼される。フットワークがよく、いつでも企業の勝手口から入ることができる。そうなれば、売上げは自然とついてくるはずである。
にもかかわらず、御用聞きのできない営業マンが「提案型営業」だの「問題解決型営業」だのと言っている。「10年早い」と言いたい。
そういう営業マンに限って、決裁責任者でない人間に提案書をもって通いつめたり、先方の売上高の倍にも上るような見積書を作ったりする。相手を知らずして、提案などできるわけがない。
中途半端な提案型営業を気取るなら、御用聞きに徹するほうがよっぽどマシだ。
たとえば、「部長、このあいだのシステムの件、あれ部長がお忙しいようなら私が代わって現場の意見を聞いてきましょうか」と本来部長のやるべき仕事の代行を買って出る。
部長に現場の人間を紹介してもらって、徹底的にヒアリングをし、その組織の抱える問題点を洗い出す。そうすれば、現場にしかない情報も山のように入ってくる。もちろん「現場はこう言っていました」と、結果のフィードバックは忘れてはならない。それを踏まえて企画書を作成すれば、管理職である部長には部下の意見を提供することで感謝され、自分自身も完成度の高い提案をすることができる。
そもそも、提案は最初の接触から契約までのプロセスのなかで、八合目に至ってはじめて行なうものである。相手企業の業態、経営の状況、歴史、競合、取引関係、さらには社内の人間関係までを把握していなければ、成功はおぼつかない。大企業になれば、意思決定者が複数になるから、どこにだれがいて、どんな癖を持っているのかも確認しておく必要がある。たとえば、保守的で現状維持を望む人はどこにいるのか、新しい物好きで、社内でもよく提案をするのはだれか、などだ。担当者の一点のみとしか付き合いがないようでは、とうていダメだ。
いざ提案するとなったら、相手企業のライバル会社や仕入先、販売先、近所の主な企業、系列、株主などをチェックしておく。「あの会社も使っていますよ」と横並び意識をくすぐることもできる。
このような詳細なヒアリングと事前調査があってはじめて「提案」できる。だから、御用聞きのなかにこそ提案型営業の本質があるのだ。