読売新聞夕刊(2005年4月19日刊) 【こだわりのワーク事情】
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降ってわいたような買収話や特許を巡る紛争、さらには相次ぐ企業の不祥事-日本企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。そこで、法務や会計、知財部門を強化するため、社員が関連の資格を取得するのを金銭面などで手助けしたり、有資格者を積極的に採用する企業が増えている。
アサヒビールは2003年から、社員が仕事に役立つ資格を取得した場合、数千円から数万円の受験料を肩代わりする制度を始めた。司法試験や弁理士など26の資格が対象で、この制度の導入を機に社員の間ではキャリアアップへの関心が高まっているという。
この中で、末永秀隆さん(37)は、制度をテコに希望していた部署への異動を果たした。末永さんは同社の九州地区本部経理部で働いていたが、債券管理を担当したことから法務に興味を持ち、2004年にビジネス実務法務検定1級を取得した。この知識と、やる気を買われ、5月に本社法務部に異動した。
末永さんは「資格を取ることで自分をアピールできる。希望がかなえられ、働く意欲は、とても高まった」と満足している。
三菱商事法務部の法務スタッフは、約半数が日本かアメリカの弁護士資格を持つ。弁護士を優先的に中途採用してきたほか、部員をアメリカに留学させ、現地の弁護士資格を取得させてきた。法務スタッフは、契約や扮装の際の法的なリスクなどを検討する。高度な法知識を求められるため、知識武装が欠かせないからだ。
法務第4チームの野島嘉之リーダーも入社6年目にアメリカのロースクールに留学、ニューヨーク州の弁護士資格を取得した。この資格は、アメリカ企業との交渉などの際に役立っている。野島さんは「アメリカの弁護士がどういう教育を受けて、どんな考え方をするのか理解できた」と説明する。
法務第2チームの村上玄純マネージャーは転職組だ。6年半の間勤めた名古屋市内の法律事務所を「もう少し新しい仕事をしたい」と飛び出し、2002年10月に三菱商事に入った。法律事務所では顧客が固定化しているため、仕事の内容が偏りがちだったが、企業内弁護士になってからは扱う仕事の幅が格段に広がったという。
村上さんは「弁護士仲間にこういう生き方もあるという一つの回答を身をもって示したかった」と振り返る。
会計や法律の専門家を欲しがる企業は多い。資格の取得を目指す人向けの専門学校を展開する「TAC」は2004年から、公認会計士の2次試験合格者を企業にあっせんする事業を始めたが、同年は72の企業から、122人分の求人が集まったという。「予想以上の大きな反響」(福岡広信取締役)に手応えをつかみ、2月からは同社の100%子会社「TACプロフェッショナルバンク」の人員を増強し、紹介先の開拓などに本腰を入れている。
公認会計士2次試験合格者は、監査法人に就職するのが”王道”で、日本公認会計士協会によると、2004年度は公認会計士2次試験合格者の約9割が監査法人に入っている。だが、最近は一般企業も獲得に意欲を見せている。その背景には有価証券報告書の虚偽記載問題などを機に、企業統治に対する意欲が企業内でも高まっている事業がある。
人材紹介の「エリートネットワーク」にも弁護士や公認会計士、弁理士などの求人依頼が増えている。松井隆社長は「監査法人に勤める公認会計士が、監査という後工程の仕事に飽きたらず、自らビジネスを仕掛けていく企業側に転職して腕を磨こうとするケースが結構ある」と資格者の間でも転職志向が高まっている実態を説明している。