クルマを、インターネットと常時接続される移動端末として考えると、我々は新たに大きく次の六つのサービスを創出することができると考えています。
一つ目は、「セーフティ&セキュリティ」。これは、車両及びドライバーに緊急事態が発生した直後に、クルマからコールセンターに情報が送られ、救急や警察、修理業者等への連絡で適切な対応が図られるというものです。例えば事故やドライバーの急な体調不良の際に、迅速に救助・救援が行われます。駐車時においても、盗難や故意の破損行為などに対する自動通報など、しかるべき対応を行うことが可能になります。
二つ目は、「ドライバーへの情報提供」 です。交通情報をはじめ、店舗や各種施設など現在地周辺や目的地周辺の有益な情報を、今までのカーナビ以上に精緻にドライバーにお届けすることができます。
三つ目は、「インターネットアクセス」 です。現在、PCやスマホで使用するWebアプリの多くが使用可能になります。FacebookなどのSNSにも車内からアクセスできることになります。
四つ目は、「企業に対する情報サービス」 です。タクシー会社等の車両運行管理や、運転状況に関するデータの保険会社等への提供など、この領域の裾野は相当に広いと考えられます。
五つ目は、「ディーラーとのコネクション強化」 です。車検や定期点検のお知らせを車両に表示させることができます。更に、エンジンオイルやブレーキパッドといった消耗品の情報をネット経由で受信したディーラーから入庫をお勧めすることで、クルマの予防保全にも繋がります。
六つ目は、「料金の決済」 です。ETCのサービスを拡張するイメージで、駐車場料金やガソリン代などを自動決済することが可能になります。
以上の六つのサービス領域の一部は、既に単体で実現されていますが、これらを統合されたサービスとして提供できるのがコネクティドカーです。また、日産自動車では、コネクティドカーの未来像について、この六つのサービス領域に限っている訳ではありません。それぞれの領域で新たなサービス開発が見込まれるのはもちろん、いずれにも属さないサービス領域が出現することもあり得ると考えています。コネクティドカーのサービス開発は端緒についたばかりなのです。
実は、我々はかなり前からコネクティドカーと自動運転技術について、次世代の技術的な柱として研究開発を始めていました。要素技術が重なることの多いこの二つのテーマを、一つの開発部署で追いかけていたのです。現在は、それぞれに関わる要員も増え、専門性も高くなったため、それぞれ独立した部署となりましたが、今も連携を密に行っています。
話をコネクティドカーに戻すと、日産自動車は完成車メーカーの立場から、先ほど申しました “コネクティドカーがもたらす新たなサービス” を見通しながら、それを実現する車載機器を開発しています。サービスの構想がいくら進んでも、車載機器開発の連動がなければ絵に描いた餅に過ぎないと言えます。
IVI (車載インフォテイメント) システムの技術企画と戦略の策定、純粋な車載製品としてプロダクトの先行開発を進めることが、完成車メーカーである我々の担う第一の役割です。先行開発の中身としては、基本設計をはじめ、コアとなる部品の検証・評価実験、試作品評価、そのためのツール開発など広範囲に及びます。実際の回路設計やソフトウェア設計、筐体設計などを担当するのはサプライヤーです。我々は技術企画を取りまとめて仕様を提示し、出来上がった機器をテスト・評価していくことになります。
つまり、コネクティドカーにおいても従来の自動車開発の進め方と、外見的には大きな変化はないと言えるでしょう。
いえ、それがまったく異なることばかりで、自動車のエレクトロニクス開発に30年以上従事してきた私にとっても、チャレンジングな取り組みです。
一つには、開発の進め方は同じでも、それを進めるスピードが驚くほど早いことが挙げられます。日進月歩で進化するコネクティドカーの開発競争はスピード勝負。コンシューマエレクトロニクス製品とも競合するところがあり設計やテストのマイルストーンを設定しています。そこで求められるのは判断の素早さです。日産自動車社内でも私たちのコネクティドカーの開発部門と自動運転の開発部門は、他部門とは違う時間感覚で仕事をしているように思います。
ただし、いくらコネクティドカーの開発が端緒についたばかりだからと言って、インターネット黎明期のように市場拡大の勢いに乗って、製品やサービスの完成度よりもリリースを優先する訳にはいきません。なんと言っても自動車の設計や製造は、まかり間違えば搭乗者はもちろんのこと、道路上の歩行者や他のクルマまで危険に晒すことになります。そうした事態を招く蓋然性を100%避けるのが自動車開発です。コネクティドカーの車載機器も、使い易さや安全性について十分というところまで検証が行われていなければ、車載製品として不適合です。安全思想においてコネクティドカーは、従来の自動車開発と何ら変わることはないのです。
このように、コネクティドカーの車載機器開発では、一見すると相容れない 「スピード開発」 と 「安全性の確保」 という二つのテーマを並存させることが必要です。我々は双方の目的を満たせるように、堅牢で冗長性のあるプラットフォームの上に短期間で柔軟に変更することが可能なアプリケーションをスタックする、アップグレード性に優れた仕組みづくりを図っています。
もう一つ、従来の自動車開発と大きく異なる点としてぜひ挙げたかったのが、まさに参画プレイヤーの多彩さです。実際に車載機器の開発・製造やコアデバイス等の提供を担うのは、従来のティア1やティア2とは限らず、IT利用製品の開発に長けたコンシューマエレクトロニクス企業や、自動車業界とは交流の薄かった通信機器メーカーなども、コネクティドカー開発のプレイヤーとして参画しています。
また、Webで様々なビジネスを展開している企業やIT業界に属するようなソフトウェアの企業も、様々なサービスやアプリケーションを提供してくることになるはずです。我々としてもそうしたプレイヤーと、業界の垣根を取り払って積極的に協業していくでしょう。現実に、これまで繋がりの薄かった産業分野のエンジニアたちと、技術交流が活発化しています。
今後は、IT系の企業が製品開発をリードするようなことも考えられます。一方で、完成車メーカー間でも、競争は激化しています。この先、どの業界、どの企業がコネクティドカーのイニシアティブをとれるか、まだまだ決まっていない状況なのです。
一つには、我々は最終製品としてコネクティドカーを世に送り出す完成車メーカーであり、その中においてもEVで検証してきた膨大なデータとノウハウの蓄積を持つことです。リーフに搭載されるシステムには既に多くのコネクテッド機能があります。例えば無線通信でデータセンターと常時コネクトし、充電ステーションの位置を定期的に更新して配信しています。
また、アライアンスを組んでいるルノーとはこの分野でも密に連携しており、ワールドワイドでコネクティドカー戦略を展開していけることも大きいですね。
これはもう、人材面の拡充に尽きます。従来の自動車開発では縁の薄かったような技術を数多く取り込まなければなりませんから、対象となる技術スキルを持った方であれば、一人でも多く仲間に迎え入れたいと考えています。現在、私が統括するコネクティドカー&サービス開発部のメンバー数は三桁に及び、サプライヤーの優秀なエンジニアの方々とも協力態勢を組んでいますが、それでもまだ参加余地は沢山あるのです。
具体的に求めている人材要件としては、まず、車載機器のソフトウェアの開発要員が挙げられます。OSレイヤーではLinuxに精通したエンジニアがスキルを活かせるはずです。アプリケーションレイヤーではC言語やJavaでネイティブアプリの開発ができるソフトウェアエンジニアにも、アンドロイドやiOS 上のデバイスで動くWebアプリの開発エンジニアにも、門戸を開いています。
通信・ネットワーク系のエンジニアにも、活躍するステージは充分あります。コネクティドカーの車載機器は、スマホとの連携が重要ですから、WI-FIやBluetoothなど近距離無線通信の技術を持ったエンジニアなら実力を存分に発揮できるはずです。そのほか、外部インターネットとのアクセス技術を持ったIPエンジニアもスキルを発揮できる場面が出てくるはずです。
そして、今後一層注力したいのがセキュリティ技術です。オープンなシステムに繋がることができるコネクティドカーは、PCやスマホ同様のセキュリティ対策が必要になります。不正アクセスやウイルスを防御するファイヤーウォール技術を持つエンジニアや、セキュリティホールなどシステムの脆弱性を検証して改修する技術に長けたセキュリティエンジニアは、すぐにでも実力を発揮できるでしょう。
他にも、GUI (グラフィカルユーザインターフェース) や音声認識のエンジニア層も充実させたいと考えています。使い易さ、分かり易さ、レスポンスにおいて、この二つの技術テーマは、コネクティドカーの魅力を大きく引き上げるからです。
それは何と言っても、コネクティドカーという今までになかった領域に挑戦し、社会に向けて新しい価値を生み出していくというダイナミズムです。更に、自らの技術が、コネクティドカーという最終製品のカタチになって世の中に出て行く充実感が持てることでしょう。
また、“クルマは様々な技術の擦り合わせでできている” と言われます。つまり、色々な部署の多くの人とやりとりをしながら、大きなチームワークで完成に向かう製品です。実際、コネクティドカー&サービス開発のエンジニアたちも、日産自動車社内のインパネ設計、ディスプレイ設計、スイッチ類の設計といったHMI (ヒューマンマシンインターフェース) 関連の部門はもちろん、CANでデータを吸い上げることになるエンジンやトランスミッションの開発部門まで、幅広い領域のエンジニアと連携しています。加えて海外部門のエンジニアやサプライヤーサイドのエンジニアまで、その交流範囲は想像される以上でしょう。
先ほど、安全と品質が完全に担保されるまでは製品をリリースしないと言いましたが、これは一つの技術テーマの完成度を引き上げるために、テストや検証を繰り返してばかりいるという意味ではありません。コネクティドカー&サービス開発部の中にも技術的なバリューを追求する先行開発的なチームが存在し、そこでは次々と新しいテーマを追いかけ、目処がついたら検証を担当するメンバーに引き渡しています。少なくとも先行開発を担っているメンバーは、グローバルで最先端のWebサービスをリリースしているエンジニアたちと同じステージに立っているのです。
現在、自動車関連で活躍している方はもちろん、それ以外の業界に所属するエンジニアにも、次のキャリアステップ先として目を向けて欲しいのは言うまでもありません。
日産自動車のコネクティドカー&サービス開発部では、コネクティドカーの開発に心血を注ぎたいと考えるエンジニアをお待ちしています。