川崎汽船のビジネスを端的にご説明しますと、日用品や加工食品、工業製品まで多種多様な貨物をコンテナに納めて輸送するコンテナ船事業、鉄鉱石や石炭、製紙原料から穀物まで 「ざらざらした粒状・粉状の材料」 をバラ積み船 (バルクキャリア) で運ぶドライバルク事業、原油やLPGなどの液体燃料をタンカーで運ぶエネルギー資源輸送事業、そして乗用車からトラックまであらゆる完成車を運ぶ自動車専用船事業があります。
海運業において、このように幅広い船種で展開する業態は世界では珍しく、日本の海運事業者の特徴となっています。中でも弊社は 「コンテナ船事業」 の売上構成比率が50.1%と高いのが特徴です。コンテナ船は運賃市況の影響を受けやすいビジネスですが、積荷が比較的軽量であることから船の大型化が図りやすく、単位数量当たりの輸送コストを下げ、価格競争力の高い運賃設定が可能となります。
弊社が2015年に新造した最新鋭の省エネ機能を備える超大型コンテナ船 “MILLAU BRIDGE (みょーぶりっじ)” は、14,000TEU、すなわち標準的なサイズのコンテナを14,000個も積載することが可能となっています。
一方、バルクキャリア、タンカー、自動車専用船については 「不定期専用船事業」 と位置付け、売上高構成比で44.4%を占めています。これらの船の運賃は一定期間にわたって固定とする契約も多く、経済環境の変化に関わらず比較的安定的な収益が見込めるビジネスとなっています。
また、日本国内を就航するフェリーなどの近海・内航事業については関係会社の川崎近海汽船株式会社が展開しています。
世界の貿易量は中長期的に増加基調にありますが、最近は中国経済が減速する中で各国の海運事業者との競争環境は厳しさを増しています。そこで、中期経営計画において、創業100年を迎える2019年に向け、事業ポートフォリオの最適化を進めつつ、各事業において構造改革に取り組み、いたずらに売上規模の拡大を求めるのではなく、「量より質の経営」 を推進していく方針を打ち出しています。
コンテナ船事業を例にとれば、アジアの海運4社との 「CKYHEアライアンス」 体制を更に深化させながら、先ほどお話しした省エネタイプの超大型新造船を順次投入していきます。また、アジア―北米及びアジア―欧州を結ぶ東西基幹航路を軸として、新たな航路開発もきめ細かく進めて参ります。これらの取り組みによって、サービス品質とコストの両面で競争力アップを目指していく計画です。
江戸末期の薩摩藩に生まれた実業家・川崎正蔵が1896年 (明治29年) に株式会社川崎造船所を設立し、その後1919年 (大正8年) に船舶部を分離して設立したのが川崎汽船株式会社です。第一次大戦後、川崎造船所が保有していた船を日本の経済発展に役立てようという趣旨で設立されました。
昭和に入って事業は堅調に推移しましたが、やがて第二次大戦が勃発します。終戦を迎えた時には保有船舶が12隻にまで激減し、多くの乗組員も亡くしましたが、そこから事業再建に漕ぎ出しました。その後、日本は高度経済成長時代に入り、海運需要も順調に伸びていきました。
1970年代に入ると、変動相場制の導入で1ドル=360円であった為替相場が崩れて円高となり、収入が全てドル建ての外航海運事業は大きな痛手を被りました。続くオイルショックでは船の燃料コストの高騰に晒され、更に1985年のプラザ合意によって再び円高ドル安が加速しました。この時は海上で勤務していた従業員の多くをリストラし、船員構成を外国人中心に転換することで総人件費を抑制するという選択をせざるを得ませんでした。
これらの荒波を乗り越えながら、国内他社に先駆けてコンテナ船事業を推進し、日本初の自動車専用船 「第十とよた丸」 や日本籍初のLNG (液化天然ガス) 運搬船 「尾州丸」、電力炭の輸送に最適な石炭専用船 「CORONAシリーズ」 などを就航させています。いずれも当時は誰も手掛けていなかった新しいチャレンジであり、業界の既成概念を打ち破ることでビジネス・チャンスを獲得し、成長を続けてきた海運会社であると言えます。そして、このようなチャレンジスピリットが川崎汽船らしい風土を形づくっていると感じています。
エネルギー資源輸送事業を通じて培った技術やノウハウを生かし、海洋エネルギー資源の開発に関わる船舶分野で新規需要を開拓しています。
海洋資源開発ビジネスでは、既に比較的水深の浅い海域や湖などの資源は開発し尽くされており、今後は深海もしくは北極海など海洋気象の厳しい海域が主な探索対象になります。このようなニーズに対応して、海上油田や天然ガス田への物資輸送や設備のアンカー巻き上げ・曳航作業などを担うオフショア支援船事業をノルウェーの関連会社が推進しています。また、海洋資源の探査や掘削を行うドリルシップなどの事業も戦略的に展開しています。
更に、発電所などのエネルギー産業やインフラに関連する大型貨物を輸送する重量物船事業についても、重量物専業船社としてノウハウを蓄積するドイツの関連会社が推進しています。
また、エネルギー資源輸送事業において、天然ガス自動車の燃料として注目が集まるCNG (コンプレスト・ナチュラル・ガス:圧縮天然ガス) 輸送船の実現に向けた研究を推進しています。また、海運事業を取り巻く環境規制の動きに先行対応し、クリーンエネルギーであるLNGを燃料とする船舶の開発や、航行時の窒素酸化物などの排出を抑制する装置の開発に取り組んでいます。海洋汚染を極小化し生態系を守っていくことや、地球温暖化の緩和に向けた取り組みは、海運事業者として持続的に成長するための優先的な課題であると考えています。
また、グループ各社のネットワークを組み合わせ、東南アジア各国の港を起点とする陸上輸送や倉庫など、海上貨物の輸送に付帯する物流事業を、既存の海運事業にプラスアルファする新たなビジネスとして育てていこうと戦略的に取り組んでいます。
正にその通りで、弊社は部門によってそれぞれ性格の異なる業務を経験できることが大きな特徴であり、それは働き手にとって一つの魅力であると感じています。コンテナ船、バルクキャリア、タンカー、自動車専用船、それぞれの事業に営業部門がありますが、船種も契約形態も荷主も異なり、提案営業におけるポイントも異なります。更にそれぞれの船の運航管理業務もあれば、国内外のターミナル運営業務、 陸上の物流企画業務もあります。本社の管理部門に目を転じれば、海事法務、財務、IT関連業務まで、個々の業務内容は幅広く、同時に事業全体では密接に影響し合っています。
私自身は新卒で入社後、財務部門に配属され、弊社のビジネスの財務戦略――資金調達から予算管理までを一通り経験しました。ここでは10億円、20億円といった単位で資金を動かす海運事業のスケールの大きさに度肝を抜かれました。
そして、3年後にバルクキャリアの営業部門に異動しましたが、ここではまず運航管理業務に携わり、業務の中で目を光らせるコストダウンの単位が一気に小刻みなものとなりました。一航海につき10万円、20万円といったコストをいかにセーブするかが至上命題となり、創意工夫を重ねる日々でした。異動した直後は 「まるで違う仕事をしている」 と戸惑いましたが、すぐに新しい環境に慣れ、むしろモチベーション高く取り組むことができました。事業そのものはダイナミックでありながら、一つひとつの航海は非常にきめ細かく緻密なオペレーションの上に成り立っており、その両方に関与できる面白さを感じていました。
何故この話をしたのかと申しますと、私の財務部での3年間が、例えば社外の金融機関での3年間であっても、異業種の事業会社の3年間でも、違和感なく弊社の営業部門の仕事にソフトランディングして頂けると思うからです。もちろん財務部に限った話でもなく、中途入社される人材が、前職の業界や業務内容に関わらず、従前の経験を糧にして活躍できる幅広いフィールドが、総合物流企業であるが故に弊社には揃っていると考えています。
二番目の部署でドライバルク事業の営業に取り組んでいた時、上司にユニークな人がいて、私より10歳ほど年長でしたが、それまでの常識に捕らわれない斬新なアイデアを形にしています。先ほどもお話しした電力会社向けの石炭船 「CORONAシリーズ」 を開発したのがこの人物でした。
当時、火力発電所向けの石炭を運ぶ船はパナマックスサイズ、すなわちパナマ運河をぎりぎり通過できる船型のバルクキャリアを用いるのが主流でした。北米と南米の間に位置するパナマ運河を通過できる船は、南米大陸を大回りすることなく航路を採れるため、外航海運において非常に大きなメリットになります。
ところが通常日本の電力会社が使用する港は水深が12.72メートルと浅いため、パナマックスサイズの船にフルに石炭を積み込むと、重さで船の喫水が下がり過ぎ、港に入れなくなってしまいます。船を大きくすれば石炭はたくさん積めますが、パナマ運河を通行できなくなるとの理由で、当時はどの海運事業者もパナマックスサイズの船を使い、非効率なのは承知の上で積載できる重量の8割ほどの石炭を積んで電力会社に運んでいました。
これに対して、CORONAシリーズはポストパナマックス、つまり船のサイズを大きくしてより多くの石炭を積めるようにしたバルクキャリアです。船幅が広い分、船体の沈み込みが少なく、浅い港にも入ることが可能になります。パナマ運河は通れなくとも太平洋域内で完結する最適航路を精査し、一航海でより多くの石炭を運びながら、更に電力会社以外にも鉄鋼会社などで使用する石炭を運ぶことで船の稼働効率を高めていったのです。
クライアントのニーズの本質がどこにあるかを見極め、そのための最適な船型と航路を開発し、グローバルな視野で海上輸送ビジネスを動かしていく。この仕事の醍醐味は、プロデューサー的な立ち位置で潜在的な需要を掘り起こし、中長期的な視野でクライアントの海上輸送業務を支援し、自社の収益を創造していく過程にあると思っています。
当時27、8歳だった私は、上司がCORONAシリーズの就航を実現させる姿を目の当たりにし、この人のような柔軟且つ大胆な発想で仕事ができるようになりたいと思いました。同時に、あと10年で自分にもできるだろうかと身が引き締まる思いでした。
一つには、社外で営業活動をして自らプレゼンテーションをする経験を重ねましたから、ビジネスパーソンとしてのコミュニケーションの基礎は身に付いたと思います。その後、タンカー事業に異動した際に、総合商社や化学会社の方と情報交換させて頂き、アンモニアやメタノールなど、世界的に需要はあるけれども弊社が専用船ビジネスに進出していない化学原料について、新しい輸送ルートが開発できないかと試行錯誤を重ねました。その過程において、ドライバルク事業で培った英語での交渉力は海外の顧客との契約・折衝にも生かせました。
また、当然ながら化学品の用途やグローバルな需給に関する知識や、これらを輸送するうえで最適な船型について新たに学んでいく必要が生じます。このことについても、財務畑からいきなりバラ積み船のビジネスに放り込まれて、自分なりに楽しみながら一生懸命新たな知識を吸収していった経験が生きたと思っています。
現状、会社全体の業務量に比して相対的にマンパワーが不足していると感じています。ワークライフバランス的な観点から、一人ひとりの従業員があまり残業をしなくても業務が遂行できるような環境を整え、性別を問わず従業員が長く働きやすい会社にしようとの狙いもあります。このような方針に沿って新卒採用だけで従業員を増やしていきますと、従業員全体の年齢構成に偏りが出て来ますので、適宜中途採用を組み合わせて増員していく計画を立てています。
陸上勤務の総合職としての採用になりますから、ジョブローテーションで様々な業務を経験してキャリアを積み重ねて頂くことになります。お話ししましたように、弊社は事業部門ごとに業務内容が異なり、多様な経験を通じて海運のプロとして成長できる会社です。
従って、様々な業務と向き合って楽しみを見出して頂けるような方に期待しています。新しい船種、新しいクライアント、新しい貨物とその用途やビジネスの需要などについて、学び続ける意欲のある方、と言い換えることもできるでしょう。年齢に関わらず魂が元気な方、チャレンジスピリットを持っている方と面接でお会いしたいと思っています。
国内の海運大手3社の中で、弊社は常に健全なる危機感を持って上位船社を追いかけ、川崎汽船独自の価値を提供することに注力してきました。「こんにちは、川崎汽船です」 とクライアントや総合商社、あるいは造船所を訪問して、貨物輸送の新しい需要を発掘し、グローバルなビジネスを構想・提案し、それを実現させるうえで最適な船を開発する戦略的な仕事です。
社内外を問わず、多くの人と交渉を重ねてビジネスを形にしていく業務ですから、コミュニケーション力は求められます。コミュニケーションする相手は外国人である場合もありますので、英語については少なくとも入社後に慣れて頂く必要があります。必然的に話さなければならないので、入社時の語学力がどうあれ、意欲さえあれば何とかなります。既に英語ができる人には、更にもう一つ別の言語にチャレンジする機会があるかもしれません。
約100年の歴史を持つ会社ですが、学閥が無くリベラルな社風であることも魅力の1つです。中途で弊社に入社し、現在、専務や海外子会社の社長として活躍している者もおります。
また、弊社の営業担当者に実施した意識調査では、「顧客志向」 の項目がダントツに高くなっていることもお伝えしておきます。一歩ずつ関係性を築き、クライアントの潜在的な悩み、材料調達や貨物輸送の周辺でまだ実現できていないニーズをキャッチして、自らのアイデアで新しいルートを提供することでクライアントに 「ありがとう」 と言って頂く。そこに大きな喜びを見出すと共に、川崎汽船の存在意義を感じている従業員は多いと思います。
これから川崎汽船の一員となる皆さんが、クライアントのニーズと弊社サービスのギャップを新しい発想で埋め、まだ実現できていない海運ビジネスを形にして頂くことを願っています。