私どもの英文社名はDevelopment Bank of Japan Inc.ですが、これをそのまま日本語に訳せば、「日本の開発銀行」となります。この英文からもご推察頂けますように、当行は戦後の復興期、わが国の産業再興に必要な資金を健全な形で企業に融資する役割を担う国の政策金融機関として、スタートしました。
こうした設立の経緯もあり、当初は「復興金融金庫」という名称でしたが、1951年に「日本開発銀行」に名称を変更。また、1957年には北海道と東北エリアの産業振興を支えるべく、「北海道東北開発公庫」も発足します。
その後、1980年代に中曽根内閣が推進した行財政改革の流れの中で、政府系金融機関についても見直しが進められました。改革の結果、1999年、日本開発銀行と北海道東北開発公庫は一つになり、特殊法人である日本政策投資銀行が誕生します。誕生にあたっては、国の特殊法人から民営化されたJR(東日本旅客鉄道株式会社をはじめとする旧日本国有鉄道)やNTT(日本電信電話株式会社へと改組された旧日本電信電話公社)等と同様に、いずれは民間の方々に株式を保有して頂くことが目指されています。つまり、公益性のみならず収益性も確保できる金融機関となることが前提とされており、この点は私どもの提供するサービスに大きな影響を与えています。
時代とともに、金融機関としての役割も大きく変化しました。戦後から高度経済成長期までは、固定金利による長期融資を通じて基幹産業をバックアップする役割を担ってきました。しかし、石油ショック以降は、融資によるサポートだけでなく、新たな成長事業への投資等を通じて産業のリストラクチャリング(構造転換)を積極的にお手伝いするようになりました。
そして2008年、株式会社日本政策投資銀行法の下に、長期融資・リスクマネーへの投資・M&Aのアドバイザリー業務を一体的に提供できる独自のビジネスモデルを強みとして、株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)が業務を開始しました。
リーマンショックのような世界規模の金融危機への対応、あるいは大規模な自然災害の復興には、大きな資金が長期間にわたって必要とされます。このようなケースでは民間の金融機関だけでは十分な資金は回りませんから、政策金融機関として資金繰りを支える長期の融資を実施することで、金融システムの正常化や災害復興のお手伝いが可能となります。
また、長期融資では短期的な収益性を見るのではなく、例えば15年後の企業や事業領域の姿を視野に審査を積み重ねます。DBJは長年このような民間事業に関わるリスクとリターンを長期的に見極めるノウハウを蓄積しています。だからこそ共同経営投資等の形で民間企業の事業に参画し、将来における成長を分かち合う投資スキームを導入する際にも、より的確な判断が可能です。加えて、融資と投資を融合させたテーラーメイドの商品も組成しています。
一方で、日本経済全体が成熟化している現在、業種業態を問わず全国の企業が国内で新たなアライアンスを模索し、また海外市場への進出に可能性を見出しています。従って異業種との資本提携や海外企業のM&A等、アドバイザリー業務のニーズは依然として高いと言えます。政策金融機関としての長期にわたる投融資を通じて、日本を代表するような企業から地方の中堅企業まで、数多くの優良企業と取引実績があり、そこで構築した信頼関係をベースに新たなアドバイザリー業務の相談を頂くこともよくあります。
このように、DBJにおける「融資・投資・アドバイザリー」は、各々単独のサービスというよりも、三位一体で提供することでお客様に価値を感じて頂いているのが特長です。
当行の成り立ちと発展の経緯とも関わるのですが、1980年代の政府の行財政改革を受け、議論を重ねてDBJが誕生した際、「民間の金融機関の事業を圧迫しない」事業のあり方が模索されました。つまり政府が100%出資する金融機関として、民間と競合しないサービスによって存在意義を高めようという姿勢をとっており、これは現在も変わっていません。
この姿勢を貫くためには、ほかの金融機関がまだ取り組んでいない新しいサービスをできるだけ早くカタチにして提供しなければなりません。常に時代のニーズに合った新しい金融スキームを開発し、お客様である企業や社会の課題を解決し続けることは、私たちの普遍的な行動原則であり、DNAです。こうした考えから絶えず挑戦を重ね、進化させてきたのが「融資・投資・アドバイザリー」を三位一体で提供していくビジネスモデルであり、3つの領域を横断して拡充させているサービスメニューであると言えます。
これまでにも、民間による融資が困難な長期資金の融資を始めとして、国内初のプロジェクトファイナンスや国内におけるモデル事例となった再生ファイナンス、リスクマネーを供給するメザニンファイナンス等、数々の新しい金融サービスを提供してきました。そして現在、社内で2020年度から3カ年の目標を定める新たな中期経営計画の策定に向けた議論を始めています。これまで同様、金融フロンティアの開拓に挑み続ける姿勢を継承し、社会のニーズを先取りして世の中の金融機関がまだ手を付けていないサービスを戦略的に強化していく考えです。
2019年度を最終年度とする現行の中期経営計画にも明記していますが、株式会社化する以前から豊富な実績を持つエネルギー、運輸・交通、都市開発のインフラ3分野に加え、新たに注力する産業分野として航空宇宙、通信、ヘルスケア、ロジスティクスを打ち出しています。これら新分野については、いずれも未知の分野に挑戦するということではなく、DBJがこれまでに蓄積してきたビジネスリソースを戦略的に活用できる分野であると考えています。
例えば運輸・交通分野では、DBJは航空機のエンジンモジュールを製造する複数の重工業メーカー様と長いお付き合いがあります。それらの航空機エンジンをつくる技術の延長線上には宇宙開発ビジネスがあり、この分野に参入している多くの民間企業に対して、DBJが培ってきた投融資のノウハウを活用することができます。宇宙開発は成果が出るまでに一定の年月を要する研究開発型のビジネスですが、そもそも長期的な視野で事業の成長を見据え、資金を提供してきたDBJにとって親和性が高い分野であるとも言えます。
ヘルスケア分野につきましても、DBJは株式会社化する以前から地域医療や病院経営に関する調査研究を積み重ね、各種レポートを発信してきました。これらの知見を活用し、病院経営の改善提案を行うとともに、証券化を始めとする金融スキームを用いた施設リニューアルのための資金調達において多くの実績を積んでいます。現在では行内にヘルスケア分野のエキスパートといえるチームが育っており、これらのリソースを踏まえた上で、ヘルスケアをなお一層強化していく分野と位置付けているのです。
キャリア採用によって特定分野の経験をお持ちの即戦力の人材を補強しようという意識は相対的に高くありません。広義の金融業界における人材の流動化を背景に、事業拡大に伴って今後不足することが想定される人員を総合職として採用・育成しています。入行後は複数部門のローテーションを通じて「長期性」や「公益性」といった当行が重視する視野を養成した上で、本人の希望も聞きながらキャリアを設計してもらおうという意向を持っています。
勿論、前職での経験やスキルを活かして同じ業務に携わってご活躍頂くことはあります。しかし、当行においてずっとそのポジションで働くのではなく、総合職としていずれは別の業務・別の部門も経験して頂きたいと考えています。
通常、当行の若手は入行後10年ほどいくつかの部門をローテーションし、広く事業領域を俯瞰しながら業務に取り組みます。そして10年目以降は、ご自身の適性や意向を踏まえて一つのポジションを長期に経験し、より専門性を深めていきます。
キャリア採用によって入行した方には、キャリアの幅を広げ、既にお持ちの専門性に加えて、新たな専門性を身に付ける可能性を発見して頂くことを期待しています。企業が事業ポートフォリオを持つのと同様に、個人も複数のスペシャリティを追求することで、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できる強いキャリアを築くことができます。また、仕事だけではない人生全体という広い意味でのキャリアをより豊かにするという点からも、専門性をマルチに持つことは役立つ、と個人的には感じています。
政策金融機関として長期的な視野で企業の成長を見ているとお話ししましたが、これは収益性と公益性の両方を追求するスタンスを重視していると言い換えることができます。「エコノミクス」と「ソーシャルベネフィット(社会的利益)」のバランスを図りながら仕事をする姿勢が求められる、という意味です。企業としての収益の追求と社会的な利益の追求、どちらか一方に偏ってしまうのではなく、常に高次元で両者のバランスを取る感覚が重要であると思っています。
キャリア採用の人材には、プロとしての高い意識や専門性を持っていることを期待すると同時に、その専門性をバランス感覚の中で活かしていくセンスを持っている人であって欲しいのです。単に売り上げを達成すればいいということではなく、自分の仕事がその企業のためになることは大前提として、産業全体にとってプラスになるか、社会的な課題の解決に寄与できるかといった大局的な視点を忘れてはいけないと思っています。
私は過去に10年ほどM&Aのアドバイザリーに携わりましたが、そのとき外資系の投資銀行等から当行に転職してきたメンバーと一緒に仕事をする機会がありました。彼らは皆、「DBJでは自分の気持ちを偽って収益を追いかけなくていい。だから自分はここで仕事をしている」と口をそろえて語っていました。つまり、お客様にとって本質的に必要のないM&Aについては、「やらない方がいいですよ」と率直に言える健全な環境があり、それはメンバーの働きがいに繋がっていると思います。
私自身も、海外市場への進出を計画していたお客様から相談を受け、海外企業の買収等を検討しましたが、あらゆる要素をトータルに考えて最終的に「海外進出はやめましょう」と説得したことがあります。それがこの会社のためにベストであると判断したからです。ディールが成立せず成功報酬は入りませんでしたが、お客様との信頼関係は格段に強まったと感じました。結果的に国内市場に専念したことでプラスの効果も生まれ、その企業には私たちのアドバイスを評価して頂けたと思っています。
営業部門も金融スキームを組成する部門も、自分たちの提案に対して、その都度お客様に何らかのバリューを感じて頂くことをとても重視しています。長期的なサービスを提供するから深いお付き合いが可能になるのではなく、私たちと相談することに確かな価値を見出して頂けるから、結果としてお客様と深い信頼関係が構築できるのです。
先ほども述べましたがお客様の企業規模は様々です。地方の中堅企業が初めて海外に進出する際、外資系の投資銀行では言語や商習慣といった点から密なコミュニケーションに不安も残るので、以前から取引のあるDBJにM&Aを含む資金調達の相談をしたいと依頼を受けるケースも多くあります。
そして、無事お客様が海外進出を実現してからも、現地のマネジメント改善等に向けた課題や資金調達ニーズが継続して浮上します。DBJではお客様の成長を長期的にサポートするというスタンスを全行員が共有していますから、チームとして一貫性のある支援を提供していきます。
また、プロジェクトチームは基本的に少数精鋭であり、若手を重要なポジションに抜擢するケースも多いと言えるでしょう。例えばエネルギー関連の大規模な投資プロジェクトでは、総合商社のチームとともに仕事をする機会もあります。このとき商社側がベテランを揃えているのに対し、DBJのチームは20代後半のメンバーで構成されていることも珍しくありません。当然ながら、チームのメンバーは若くてもビジネスパートナーとして対等に議論でき、信頼を頂けるレベルの知識やスキルを身に付けた上での抜擢になります。
若手の活躍機会という観点で付け加えれば、人材育成にも非常に注力しています。2018年度からは若手の海外人材育成の一環として、英国Oxford大学のSaid Business schoolと提携し、DBJ独自のプログラムを立ち上げました。加えて2019年度からはスイスのビジネススクールIMDとも提携し、若手向けプログラムを拡張しています。
このプログラムの中で、20代後半中心の若手職員が現地派遣を含めて数ヵ月にわたってグローバルな視点で、「DBJのあるべき将来の姿」や「デジタル化や少子高齢化等の社会課題にどのように向き合うべきか」といった内容を議論してもらっています。当プログラムでの経験も含め、若手のうちから視野が広く、かつ主体的に動ける人材を育てていきたいですね。
DBJに関心を持たれた方の参考になるかと思いますので、そもそも新卒で金融業界を志向していなかった私自身の就職活動からお話ししたいと思います。
もともと私は建築士として都市計画に携わるのが夢で、高校時代は理系クラスで工学部を目指していました。ところが物理等の科目がどうにも伸びず、文転して法学部に入学しました。就職活動では、文系のノウハウを活かして都市計画に取り組める企業を探す中、都市開発に豊富な実績を持つ日本開発銀行(当時)を発見し、入行を決めました。
最初に配属された営業部ではエネルギー分野で石油を扱うお客様を担当しました。ちょうど中東で湾岸戦争が勃発した時期でしたので、石油業界の動きを世界規模で注視しながらお客様への対応を試行錯誤しました。新人時代のこの経験を通じて、政策金融機関が重視する「パブリックマインド」について考えさせられました。
次に大阪支店(現:関西支店)に異動して3年間を過ごしましたが、東京に戻る直前に阪神淡路大震災が起こります。自分が住んでいた大阪の独身者向け社宅には被害はほぼありませんでしたが、神戸周辺には多くの行員とその家族が住んでいました。ライフラインが分断される中で被災した同僚のもとへ救援物資を背負って駆けつけ、災害復興の重要性を目の当たりにしました。
そして入行して10年が経ったとき、行費でイギリスの大学院に留学し、経済学と政治学の視点を加えたコースで都市計画を勉強する機会を得ました。学生時代から関心のあった分野のテーマを社会人として学び直すことができ、成長の機会を与えてくれた組織に感謝しています。
帰国後は北海道支店に配属され、ここで支店第1号のPFI (Private Finance Initiative)案件を担当。官民連携で公共施設を建設するスキームの組成に携わったことは、まさに英国での学びをダイレクトに活かせる経験となりました。
その後、いくつかの部門を経て、DBJ Singapore Limitedへの赴任を含め、M&A等のアドバイザリーに延べ10年ほど取り組むことになります。私の資質としてDBJのサービスラインの中でアドバイザリー業務が最もバリューが出せそうだと感じたことから、自ら手を挙げてこの道を選択しました。
ある地方の企業に対して、初めての海外進出をお手伝いしていたときのことです。事業展開を資金面で支えるためのアドバイスを重ねていく過程で、「単なる融資ではなく共同で経営に参加してもらえませんか」と投資業務に発展していった案件が記憶に残っています。
この案件ではM&Aアドバイザリーと特定投資業務をセットで提案することができ、地域の金融機関と連携してスキームを構築しました。海外企業の買収資金を地方銀行が融資し、DBJはより投資リスクの高い資金をメザニンファイナンスとして提供しました。その後、当行の中で同種のスキームを用いた共同投資を行う案件が次々と成就し、モデルケースとなる事例であったと感じています。
M&Aアドバイザリーだけでなく、共同投資の形でお客様の海外事業を支援できたことは、一般的な金融機関の枠を超えたDBJならではの多層的なサービスです。また、地域の金融機関と協働して地域企業の海外事業に参画することで、DBJらしい地域貢献の手応えが得られ、私自身もアドバイザリー担当として確実にスキルアップできた経験でした。
この共同投資による海外事業は順調に成長し、そのお客様は更に2カ国に進出されました。このうち1カ国の事業については、再びDBJがアドバイザリーを担当させて頂いています。
私は人事部長を拝命してまだ2カ月ですが、既に組織としてはキャリア採用を着実に展開しています。中途入行の人材はこれまでの採用延べ人数で130名を超え、現役行員の割合としても全行員の1割弱の規模となっています。DBJに受け継がれる長期性、中立性、パブリックマインド、信頼性といったDNAは引き続き大切にしつつ、従来の価値観だけに留まらない多様性が醸成されてきていると感じています。
また、少数精鋭の組織でありながら、行員の残業時間のコントロールを始めとする労働環境の改善にも注力しています。クライアント対応の多い営業部門やアドバイザリー部門であっても、有給休暇の取得を数値目標化する等の施策により「プロジェクトの重大局面では集中し、休める時期には思い切り休む」ことを徹底しています。メンバー自らメリハリを付けたタイムマネジメントを行い、ワークライフバランスを実現していることに加え、健全な文化として、週末の接待等がなく、業務時間外のストレスがほぼ存在しないこともお伝えしておきます。
先ほどもお話ししましたが、ご自身が強みとされるスペシャリティは是非当行でも深耕して頂きながら、部門間のローテーションを通じて新たな強みを体得し、スキルを広げて頂くことを期待しています。配属組織は勿論、人事部としても、一人ひとりの資質・志向に合わせたOJTや研修プログラムの拡充等、様々な形で継続的な能力開発のお手伝いをしていきたいと考えています。先ほど話しましたIMDのプログラムに昨年キャリア採用で入行したばかりの若手も派遣しているように、プロパーもキャリアも関係なく、人物・能力本位で評価や処遇も行っていることも特徴です。