私は1984年に東京大学の経済学部を卒業して、ボストン コンサルティング グループ(以下BCG)に入社しました。当時学生の間ではまだコンサルタントという仕事の認知度は低かったのですが、大学3年生の春にBCGのスプリングジョブに参加したことが入社のきっかけとなりました。
実はその当時、親から仕送りの授業料を全て飲み代に使ってしまい滞納していまして・・・・・(笑)
ですから授業料を支払う為に何かアルバイトをしようと思っていたところ、偶然大学の掲示板でBCGのスプリングジョブ募集の告知を見つけたのです。アルバイト代金も丁度授業料の返済にピッタリの額だったので、これは渡りに船だなと思って(笑)
採用枠若干名にも拘わらず数十名の応募があったようですが、無事に通過することができ、4週間のジョブを通じ印象的な経験をさせてもらいました。その後スプリングジョブでお世話になったコンサルタントの方から食事に招待され、その席で「うちに来ないか」と誘って頂き、BCGに入社することを決めました。
当時大学では理論経済学を専攻していたのですが、そのまま大学院に進学してアカデミックの道に進むことには正直抵抗がありました。かといって普通の企業に就職してサラリーマンになるのもちょっと違うような気がしていて。
その点、コンサルタントの仕事は物事を第三者として客観的に見ることができるのがおもしろいんじゃないかと思いBCGに入社を決断しました。
BCGへ入社した後は、色々な人達と一緒にたくさんの刺激的な経験をしました。そして入社から約1年半が経った頃、それまで一緒に仕事をしていた先輩達が、どうやらBCGから独立して新しい会社を始めるらしいという話を耳にし、それからしばらくしてその先輩達にお酒の席で「会社の立上げに一緒に参加しないか?」と誘われました。
今振り返ると人生の目標や道筋はその都度変わってしまい、自分が思い描いた通りにはならないものですね(笑)
我々の基本理念の1つとして、クライアント企業1社1社の組織風土や文化に沿ったコンサルティングを行うことを掲げています。それを実現する為に、我々コンサルタントは第三者の立場でクライアントと関わり合わなければなりません。お客様に深く入り込んだコンサルティングを提供する為には、お客様のことを親身に考える一方で、距離を置き客観的に物事を観る眼が必要なのです。
時々「コンサルタントは他人の会社に提案だけして責任をとらない集団」あるいは、「コンサルタントの仕事を成功報酬型のビジネスモデルにすべきだ」というような意見を耳にすることがありますが、それは大きな誤解だと思います。仮に投資ファンドのように我々が当事者(株主)になってしまったら、自分の株を高く売ることを第一に考えるようになり、客観的な物の見方はできなくなってしまいます。 同じ船に乗っている者がその船のことを一番正しく考えられるかというと、必ずしもそうではありません。
同じ船に乗っている他人同士よりも、同じ船に乗らなくてもその船のことを誰よりも真剣に考えている同胞でありたい。そのようなスタンスでクライアントと関わっていくことが我々の基本精神なのです。
世の中には色々な職業がありますが、ほとんどの人は「どの会社に入ってどのようなポジションに就くのか、あるいはどうしたら希望の会社から内定を貰えるのか」ということばかりに目がいってしまっているような気がするんです。そもそも、「根本的に自分はどんな仕事がしたいのか」ということを、自分自身と真剣に向き合い考え抜いている人間は本当に少ない気がします。
そのような観点から言えば、CDIは「本気でコンサルティングがやりたいんだ」という強い意思を持った人間が集まった組織だと言えます。コンサルタントという仕事を、単なる一過性のキャリアとしてではなく、皆大きな使命感を持ってやっています。
私は重大な判断をする際、「これは会社が永く続くことに繋がるか?」という視点を最も大切にしています。CDIの提供するサービスが、ほんとうに世の中にとって価値のあるものを生み出し、更にCDIで働く人にとって常に刺激的な環境を提供できるものであるとすれば、自然と新たな仕事も新たなコンサルタントも集まり、会社も永く続くようになるはずですよね。
私はよく会社のことを漬物の糠(ぬか)に例えるのですが、私の判断基準とは、今目の前にある1つ1つの仕事の中身や施策の内容が「糠床を良くすることに繋がるか」、にあるとも言えるかもしれません。これから先、企業の経営課題は変化し、我々の扱うコンサルティングテーマも益々複雑化していくと思いますが、常にどんな課題にも対応できる有能なコンサルタントを生み出し、培養していけるだけの豊穣な糠床にしていくことが私の役割だと思っています。
言い換えると、今のCDIに漂う“良い空気”を守っていき、逆にその妨げになることを排除していくことが何よりも大事だと思っています。
コンサルタントはクライアントにとって第三者ではあるものの親身になって関わり合うからこそ、しばしばお互い心の繋がりができることがあります。
経営者や事業部長にとってコンサルタントに依頼するということは、大変なコストもかかりますし、社運や職業人生を賭けることにもなります。そのような厳しい局面だからこそ、我々が本当に誠実な仕事をすることができた場合はしっかりと伝わるのです。そして依頼主が別の会社や事業部に移った場合も、また仕事を依頼されるケースも多々あります。
単にビジネス上の付き合いに留まらない心の繋がりができ、時として戦友のような感覚も生まれます。私はこの感覚を得られる時が、コンサルタントにとって最高の宝だと思っています。
ある大企業からコンサルティングを依頼されたことがあります。その企業のオーナー社長からは経営課題や事業方針について頻繁に相談を受けることがあり、本当に良い信頼関係を築けていました。ところがある日、そのオーナー社長から内密に重大な相談を受けた直後、たまたま現場に行って企画スタッフと別の打ち合わせをしていました。その日は、普段使用するミーティングルームが予約で埋まっていたんですが、偶然そのオーナーが我々の打ち合わせ現場の横を通りかかり、不意に私と目線が合ったのです。その瞬間ふと直感したのですが、おそらくその時オーナーは「こいつは自分との内密な話の内容を、現場スタッフにペラペラ漏らしているんじゃないか?」と誤解されたような気がしたのです。
それ以降、今まで築いてきた信頼関係に目に見えないヒビが入って、何となくそのオーナーとの間によそよそしい空気が生まれるようになってしまいました。残念なことです。
些細なことではありますが、コンサルタントは、そうした人の心の機微に対する感性、敏感さ、周到な配慮も、十二分に持ち合わせなければ務まらない仕事だと痛感しました。"場"全体への目配りや気配りも含めて、常にアンテナを張っていないとだめですね。
コンサルタントという仕事は、営業職で言うところの売上目標のように、はっきりと目に見えるゴールがある訳ではないので、何かを信じてそれに邁進すればよいというような意味での、拠り所はない仕事であると言えるかもしれません。ですから自分と向き合い、過去・現在を振り返りながら、常に自分の実力や課題を自分自身に問い質さなければならないのです。そのような面において、コンサルタントとはどのような組織に属していたとしても常に1人で戦う仕事、つまり職人な訳ですから、どんな局面でも自分と向き合う内面的なタフさや芯の強さがないとこの仕事を続けることは難しいですね。
よく「コンサルタントの仕事とは何か?」と聞かれることがありますが、実はコンサルタントの定義はとても難しく、私自身その定義は人それぞれ違ってもいいんじゃないかと思っています。
コンサルタントの仕事を長年続けて、職業人生の終わりに近づいたとき、最後の出口に立ってやっと自分がこれまでやってきたコンサルタントとはこういう仕事なんだと、自分なりの定義ができるようになるのではないでしょうか。
私はコンサルタントの仕事をするということは、同時に「コンサルタントとは何か?」という定義を探究する旅だとも思っています。ですからこれからコンサルタントを志す人は、現時点ではその定義が人それぞれであっていいんです。大事なことは自分自身の定義を悩みながらでも抱えているということで、「自分が考えるコンサルティングとはこういうものではないか」という仮説があるからこそ、それが仕事をすることを通じて次第に磨かれていくのです。
コンサルタントの仕事は一般的で定型的な仕事ではありませんし、誤解を覚悟で言えば、特殊な職人の世界です。採用も年間に数名しかできませんし、職人が弟子をとるようなイメージに近いかもしれません。ですから、ちょっとオーバーな言い方かもしれませんが、サラリーマンの世界から足を洗って、落語家になったり、小説家になったり、将棋指しになったり・・・・・そのくらいの覚悟を持ってきてもらいたい。
コンサルタントになるということは、会社を移るための会社選びという意味での「転職」の次元のことではなくて、「コンサルタントという生き方」を選ぶ「転身」なのです。「コンサルティング会社を選ぶ」「コンサルティング会社に入る」ということより、「コンサルタントになる」ということの方が本質的な意味では先決で、そこがしっくりこない人には、コンサルタントは無理です。たとえば、これから落語の世界に飛び込もうとしている人にとって、落語家協会か落語芸術協会、どちらに所属するかなんてことは二の次の問題ですよね?まずは落語が上手くなりたい一心、というのがそこにあるはずです。
ですから、これからコンサルタントを志す方は、どうやったら面接に受かるかということを考えるよりも、そもそも「自分はなぜコンサルティングがしたいのか」ということを深く考えることの方がはるかに重要だと思います。 どのコンサル会社に入るかよりも、まずはなぜコンサルタントをやりたいのかを自分自身の心の奥底に深く問いかけてみるべきなんです。大事なのはコンサルティング会社に入るという決断よりも、コンサルタントになるんだという決意。そしてコンサルタントになるということは、即ち"職人の世界"に入る覚悟があるかということです。
コンサルタントは特殊な職業です。それは優秀な人間が集まるという意味ではなく、ある意味で、変わった人間が集まった集団なんだと思って頂く程度でも構いません。ですから面接に受かるか受からないかは相性の問題です。面接の場では、借り物の言葉ではない正直な自分の考え、"心の奥底の動機"を聞かせて頂きたいですね。
よくよく考えてみれば、本当は世の中全体がヘンなことだらけじゃないですか。しかし、大抵の人はあまり深く考えないから、ヘンなものが普通だと信じている。常識だと信じ込まされているとも言っていい。しかし当たり前と思われていることでも、ひとたび深く突き詰めて調べて考えてみると、実はちょっとヘンなんじゃないか?と思えてくることがある。そうなると、むしろ自分の方が普通なんだと感じることがあるかもしれませんね。周りから見ると、ヘンな人なのかもしれませんけど(笑)。
コンサルタントとは、そういう人種です。
そのように物事を深く考えることができる、「個の確立」された方に出会えることを楽しみにしています。