楽天(株)グループ全体の中では依然として楽天市場事業の規模が大きいものの、昨今はトラベル、クレジットカード、イーバンクといった他の事業の成長も目を見張るものがあります。例えば、400名の人員で構成される楽天トラベルの宿泊予約数は、2万名で構成されるJTBを優に超えている状況です。2008年に買収したイーバンクも、事業収益が既に黒字に転換しました。
当社では各事業を売上ランク毎に分類しており、例えば、「楽天市場」や「楽天トラベル」等は上から1,2番目のランクに位置します。その一方で、下位にランクされる年商3~4億円規模の事業もありますが、それらの事業を成長させることにも力を注いでいます。
MBAの論理が特定の成長分野に人材や資源を集中投下する「フォーカス型」であるのに対して、楽天(株)のとっている経営戦略は、「ポートフォリオ型」です。人材や資源を分散させることによって、各事業がうまい具合に補完し合っています。天候の悪い季節には、トラベルやゴルフ場予約の売上が落ちますが、その一方で、家に居ながらでも買い物を楽しむことができるEC(イー・コマース)の売上は伸びます。現在は楽天市場以外の事業でも、この様に相互に補完し合えるレベルにまで成長してきており、 「楽天経済圏」の拡大が益々加速していると感じています。
グループ全体の流通額は1日あたり20数億円(2009年9月末現在)。このままのペースで成長を続ければ、予てから目標として掲げている「流通総額1兆円超/年」を達成する日は近いでしょう(グループ計では既に達成済み)。
事業の成長に伴って採用人数を増やしてきた結果、グループ全体の人員規模は約6000名になりました(09年9月末現在)。中途採用は07年度、08年度いずれも約700名を採用し、おそらく09年度も同規模の採用を行うことになるでしょう。 また、09年10月には、国内で13拠点目となる鹿児島支店を開設しました。今後も13拠点に留まらず、政令都市を中心に国内拠点を拡げていきます。
タラッド社買収の決め手は3つあります。 1つは、タイの経済成長率に非常に魅力を感じたこと。 2つ目は、タラッド社とのパートナーシップが良好に築けそうだと感じたこと。そして3つ目は、タイという国のカルチャーや、宗教、モノの考え方が、我々日本人にとって、違和感なく受け入れられるだろうと感じたことです。加えて、今やASEAN諸国全体の経済規模は、中国のマーケット規模を凌ぐほどです。その様なことを考え合わせると、我々にとってASEAN諸国は無視できない存在なのです。
勿論、中国や韓国、その他の国も視野に入れています。もともと当社はインターネット業界の中でも比較的早い段階から海外展開に注目し、201X年までに、アジア、米国、欧州等、世界20カ国以上で事業展開するということを想定してきました。それを実現させる為に、我々の成長スピードに合わせる形で1つずつ着実に事業を立ち上げていくつもりです。
楽天(株)は今後も国内・海外を含めて事業の拡大を続けていくでしょうが、その上で我々は“3つの拡大”を意識していかなければなりません。 1つは、人員の規模を増やす「数の拡大」です。 2つ目は、国内、海外拠点を展開することによって拡がる「面の拡大」です。そして3つ目は、M&Aよって事業形態や(社員の)人種に変化をもたらすという意味での「種類の拡大」です。これら3種類の拡大を意識しながら、それぞれのフェーズに見合う形の戦略を立案していきます。
行動ターゲティングによる情報提供サービスがあります。例えば、ある特定の商品購買層の行動履歴を追うと、その他にもどの様な商品を購入する傾向にあるか分かりますよね。それに対して、次の消費行動に繋がる可能性の高いメッセージを、特定の購買層に向けてメールやWeb画面上を通じて送るのです。
またその様な仕組みを利用した広告事業も強化していきます。 楽天(株)はもともとEC事業からスタートしているということもあり、 単純にGoogleやYahoo!と比べると、まだ広告事業の規模はそれ程大きくありません。 しかし、行動ターゲティングの様な新たな仕組みを充実させることで、広告主にとって喉から手が出る程欲しいと思える様なプラットフォームを提供できるはずですから、広告事業の可能性はまだまだ大きいですね。
ここにある2冊の三木谷の著書『成功のコンセプト』、『成功の法則92ヶ条』(共に出版社:幻冬舎)の中でも書かれていることですが、楽天(株)がなぜ今日までずっと成長を続けて来ることができたのかというと、やはりそれには楽天(株)流の考え方、経営理念、価値観、仕事の進め方があったからこそなんです。その様な考え方や行動規範、ブランドコンセプト(大義名分、品性高潔、用意周到、信念不抜、一致団結)等を抜粋し、まとめたものを「楽天主義」と呼び、全社員が共有し、理念としてとても大切にしています。
逆にこの様なコンセプトに賛同できなければ、 世の中に良い価値を提供できないし、個人としても、会社としても成長はありませんから、楽天(株)で働く上では、「楽天主義」と各個人の目指すベクトルがどれだけ同じ方向を向いているかということが求められるのです。 また社員に限らず、楽天(株)と接点のある人であれば、我々の考えを知っていて欲しいと思います。できれば、当社に応募される方には事前に「楽天主義」を理解して頂きたいですね。
楽天(株)グループのブランドコンセプトとしても掲げている『大義名分』を持って仕事をすることが大前提です。儲かれば何をやってもいいという考えは論外で、なぜこの事業をやりたいのか、世の中にどんな貢献をしたいのかを深く考えながら働いて頂きたいと考えています。
またもう1つのブランドコンセプトに『信念不抜』がありますが、決めたことは最後まで徹底的にやり抜いて貰いたい。大義名分があり、品性高潔に欠けない限りは、"Get things done.(とことんやる)"の姿勢をストイックに求めますから、ビジネスマンとして非常に鍛えられる環境です。
当社は、「楽天主義」という考えや規律が全社員に浸透している会社であり、ある部分では体育会のノリがあるとも言えます。しかし、この様な表現をすると、よく何でも勢いでやってしまうイケイケな社風をイメージされるかもしれませんが、決してそうではありません。代表の三木谷をはじめ経営陣の多くは、MBAホルダーや、経営についてグローバルなフィールドで論理的に学んできた者達ばかりです。つまり楽天(株)は、全社員共通の価値観や規律等を大切にしている一方で、創業時から常に世の中の色々な会社をベンチマークしたり、論理的なモノの考え方や視点に基づき、仮説検証・実行・改善を繰り返してきたことによって成長を続けてきた会社なのです。
社員は食堂を朝、昼とも無料で利用でき、またスポーツジムを好きな時間に利用してリフレッシュすることもできます。
毎月行われるイベントの1つには、誕生月の社員が一斉に集まってお祝いをする誕生日会があります。この誕生日会には毎月約300名の社員が参加しますが、社長の三木谷も毎回欠かさず出席し、社員を直接祝ったり、ざっくばらんに会話したりしています。組織の規模がどんなに大きくなっても、社員同士だけでなく経営トップと現場とのコミュニケーションを大切にすることを心掛けているのも、楽天(株)の組織風土の1つだと言えます。
毎週月曜の朝に行われる全社会議では、全国・海外の拠点をTVで繋ぎ、社長の話から、事業目標の進捗・管理、開発やマーケティングの成功事例等を、部門を越えて共有しています。
その他にはレディースボードミーティングがあります。これは、女性がより良いパフォーマンスや生産性を高める為にはどうするべきかというコンセプトに基づいて、社長以下経営陣と女性ボードメンバーが一緒になって運営しています。
また最近では、「楽天ジャパンオープンテニスチャンピオンシップ 2009」や「楽天世界遺産劇場」をはじめとした、プロスポーツや文化活動への協賛にも積極的に取り組んでいます。
採用では、スキル、ナレッジ、マインドの3つのポイントを求めています。
特に中途採用の場合は即戦力候補として、転職希望者が過去に培った専門知識やスキルが、我々のインターネット業界でどれだけ通用するか、というポイントを観ています。その上で、どれだけ「楽天主義」に共鳴・納得できるかといったマインドを重視しています。
最近は楽天(株)を安定した大企業だと思い、ブランド志向や安定志向だけを求めて応募してくる方がいますが、そこは勘違いしないで頂きたい。確かに規模だけをみれば大企業かもしれませんが、我々が求めているのは常にベンチャースピリット、アントレプレナーシップです。楽天(株)のこの事業を伸ばしたいんだという気概、そしてなぜそれをやりたいのかという大義名分をしっかりと持って頂きたいですね。
またポテンシャルという面では、5~10年後にどの様なフィールドで活躍しているのか、あるいはその人が入社することによってどの様な組織活性化に繋がるかという観点を、面接の際の判断基準にしています。 採用するからには、いま楽天(株)にいる同年代のトップレベルの社員と比較しても、遜色ないレベルの方を採用していきたいですね。そういう意味では、当社の採用基準は1年前と比べると、格段にハードルが上がっていると言えるかもしれませんが、応募の段階では基本的には来る者を拒まずのスタンスですから、バイタリティがあって、ポジティブ、素直さを持っている方であれば、是非応募に来て頂きたいですね。
楽天(株)に入社したからには、単なる一過性のキャリアではなく、長く働き続けて欲しいと思っています。勿論、当社で働く上でもアントレプレナーシップ(起業家精神)は大切にして貰いたいし、やはりそれ位の気概がないと、世の中に新しい事業を提供するんだというエネルギーは得られないでしょう。
ただし、個人で事業を立ち上げた場合、果たしてどれだけ世の中に影響を与えることができるでしょうか?また、ほんとうに大義名分を形にすることができるでしょうか? 勿論、独立することによってそれが100%実現不可能だとは思いませんが、やはり資本のバックアップが無いと難しいですよね。
その点、楽天(株)の中にいても、アントレプレナーシップと実現したいアイディアを持ってさえいれば、事業を立ち上げるチャンスがあり、資本のバックアップも受けられます。個人で事業を立ち上げるよりも、もっともっと世の中に影響を与え得るバックヤードがあります。ですからそれを利用して欲しいのです。
当社は、アントレプレナーシップを大事にしながら、自分のアイディアを形にできる人であれば、若くてもどんどん新しい事業を任せるというスタンスです。 2009年4月には「執行役員2.0」という制度を設けました。開発や新規サービスの企画・実現力で長けた若手人材を、楽天(株)グループの将来を担う重要な案件の責任者として抜擢し、2年間を任期に処遇する制度です。既に06年に院卒で入社した社員が執行役員として抜擢され活躍しています。
私は、楽天(株)が創業される1年前の1996年に社長の三木谷と出会いました。 その当時の自分には他に進むべき道が決まっていたのですが、それからもずっと個人的な交流は続きました。
それからしばらく経った2007年、私は自分の著書(『サムライ営業』出版社:経済界)を届ける為、三木谷に会いに行きました。その時に彼が考える楽天(株)の先々の構想を聞きました。グローバル展開、規模の拡大、それに伴う採用、社員・トップマネジメントの育成等の強化・・・・・その様な話を聞き、世界一のインターネット企業を目指し成長を続ける楽天(株)の中で、自分がこれまでに培ってきたものを活かし、何か力になれないだろうかと思ったのです。
世の経営者には、会社の内と外で全く違う2つの顔を持った方が大勢いますが、三木谷の場合、いい意味で会社の内でも外でもあまり印象が変わらないと、私は感じています。
また三木谷には、とても謙虚で、年長者を立ててくれるという一面もあります。勿論、仕事をする上で年齢は関係ありませんが、仕事というフィールドを一歩離れると、長幼の序ということも大切になさっている方です。ですから、私の方が年齢は上ではありますが、彼から学ぶことはとても多いですね。
楽天(株)は、自動車業界におけるトヨタ自動車(株)の様な存在になれるよう、本気で世界一のインターネット企業を目指している会社です。そして楽天(株)には、志とエネルギー、大義名分を持っている方であれば、年齢を問わずチャレンジできるフィールド、ポジションがいくらでも用意されています。 ですから、若い人にどんどん新しいサービスや海外事業にチレンジして頂きたいと本気で思っています。