当社は、2008年5月の開業以来ずっと、新規契約数が各月対前月比で平均して8%以上伸びており、2011年2月末の時点での保有契約件数は58,957件となっています。これは、日本の生命保険会社全体の保有契約件数が15年連続減少している中、非常に順調だと言えるでしょう。
インターネットでの生命保険販売は、世界同時期に始まった新しいビジネスなので、多くの人が興味を持っています。
ネット専業の保険会社は、今のところ、ネクスティア生命保険株式会社と当社の2社だけですが、今後ほかの会社が参入する可能性は高いでしょうね。
私は、どんな業態であっても、競合会社との差別化の秘訣というものはないと考えています。今後、どんどんインターネットの保険会社が出てくると思いますが、バリューが無い会社は沈んでいくまでです。新規参入と自由競争が社会発展の原動力ですから、これは当然のことです。競争に勝つか負けるかは最終的にお客様が決定することで、「ライフネットは他の会社より価値ある会社だ」と感じて頂くためには、当社の社員が、他の会社に負けない良いアイディアを出し、創意工夫を凝らして仕事をすることに尽きると思います。
海外展開は、会社設立時から意図していたことです。日本の企業の多くは、国内で大きくなってから海外へ、という考えを持っていますが、私はこの考え方は間違っていると思っています。そもそも、国境というものができたのは人類の長い歴史の中でも最近のことですし、人間はどこにでも移動できる。どんな会社でも、本質的にはグローバルなんだと考えています。
生命保険のあり方は、その国の社会保障制度によって大きく異なります。例えば、社会福祉が充実しているフィンランドでは、死亡保険はほとんどありません。たとえ保護者が亡くなったとしても、子供の教育や医療は国が保障してくれるからです。
生命保険も年金も、国によって様々なタイプがありますし、何よりも、生命保険は免許事業です。外国で成功するためにはその国のパートナーがいなければ成り立ちません。今はそのパートナーを探している状況です。
まずは、生命保険事業をやりたいと考えている海外の企業に、当社のことを知って頂く必要があります。しかし、広い世界の中でイチから探すのは困難ですし、調査会社に高いお金を払っても、分厚いレポートが届くだけです。それなら、こちらから情報を発信していくのが得策で、面白いことを発信すれば、興味を持つ人が必ず現れます。
例えば、英語が堪能な副社長の岩瀬は、アジアの保険会議で発表したり、英語で論文を書いたりしています。また、彼が、世界経済フォーラム(www.weforum.org)の「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」に選出されたことでも、当社への注目が高まっており、世界の色々な会社から引き合いがあります。
ライフネットの経営方針は、「真っ正直に経営する」「わかりやすいものをつくる」「安いものをつくる」「便利なものをつくる」という4項目だけです。しかし、これらの言葉は抽象的ですし、いくら立派な言葉で表現しても伝わらなかったら意味がありません。そこで、できるだけ具体的に24項目に書き下ろしたのがマニフェストです。
本来、マニフェストというのは「約束」です。お客様と会社の契約、という意味合いでこの言葉を使っています。“正直な経営をします”というだけでは具体性に欠けるため、“どのように正直に経営することを約束するのか”をわかりやすく表明しています。
重要なのは、社員が楽しくなるような雰囲気を作ることですね。このように表現すると、「じゃあその方法を教えて下さい」といつも言われてしまうのですが、私を含めた経営陣が、心の底から「ライフネットを楽しい会社にしよう!」と思っていることが一番大事なことで、テクニックではありません。恋愛にも言えることですが、本当に心から思っていないと、相手に気持ちは伝わりませんよね。
だから、具体的な施策がある訳ではなく、みんなが「楽しい会社にしよう」「どうしたら楽しくなるのか」という気持ちを持ち続けることに尽きると思います。その気持ちこそが、会社を強くする力なのです。当社では、スタッフが会社で働くことを楽しんでいる証か、私が知らないうちに運動部が8つもできていました。
もちろん、中途採用では即戦力となり得る人材を求めていますが、当社ではチームワークが全てだと考えているので、採用にあたっては現場の意見を尊重します。例えば、「生命保険会社で新契約の査定を3年以上行った経験がある方」という一定のスペックを持つ人材の中から、採用する1人を選ぶ時には、原則として候補者と配属先のチームの全員とで面談を行います。
お互いに協力して仕事をする訳ですから、今あるチームに1人加わるとなれば、どんなに優れた能力を持つ人材であっても、今いるメンバーが「その候補者と一緒に働きたいと思うか」、そして、候補者にとっても「そのチームのメンバーと毎日顔をつき合わせて楽しく働けるか」が一番の問題です。
定期採用に関しては、当社の新卒の定義は30歳未満です。当社には定年制度がないので、20代前半で入社してもらわないといけない理由もありませんし、大学3年生から就職活動をさせるようなことは決してしません。私は、大学院に進学したり海外に行ったり、回り道や寄り道をして色々な経験を積んでいることが重要で、遊ぶことや就職活動だけに大学の4年間を費やし、真剣に勉強してこなかった人では戦力にならないと考えています。
仕事に必要なのは、他人と違うことを考え、尚且つそのアイディアを実行に移す能力です。人と同じことをしていてはお金は儲かりませんし、また、良いアイディアが浮かんだだけでは仕事になりません。それを実現すること、つまり、マネタイズが必要なのです。
重要なのは、「数字とファクトをベースに、ロジックを丁寧に紡いでビジネスプランを作り上げる能力」があるかどうかです。新卒採用では、それを知るために、字数無制限の「重い課題」を出し、論文を2つ書いて頂いています。まさに「文は人なり」で、これだけの課題なら、10分や15分の面談よりも、よっぽどその人のことを深く知ることができます。
当社では、社員のほとんどが中途採用だし、定年がないため年功もない。能力と実績があれば、何歳の人が部長になっても構いません。小さい会社だから、1人の人間が様々な役割を担うことになり、その結果、人が育ち、少数精鋭の組織が生まれるのだと思います。
ライフネットは、女性と若手が活躍している会社です。若者と女性の潜在能力を存分に活かしていることが、当社の競争力の根源になっていると思います。
副社長の岩瀬は35歳です。先程もお話したとおり、非常にプレゼン能力が高く、ライフネットという会社を広報していく上で、素晴らしい人材だと思いますね。平たく言えば、岩瀬の役割は外交、つまり外務大臣というところでしょうか。
内政に関しては、中田という、日本の生保業界でただ1人の女性常勤役員の存在が大きいですね。中田は、コミュニケーションの天才で、人の話を良く聞き、適材適所に人を配置する能力に非常に長けています。メンバーともいい距離感で接し、「気がつくと周りは中田の言うとおり動いてしまっている」という不思議な人物です(笑)。
また、保険会社で非常に重要な役割を担うマーケティングの部門長は、13人いる部長の中で一番若く、29歳で部長になりました。また、企画部長も30歳です。金融庁の担当も株主の窓口も、長期予算や経営計画の作成も全て彼に任せています。他の生命保険会社では、もっと年上の人が数人がかりで担っている仕事を、30歳前後の若手社員が1人で行っています。
昨年、当社初のインターンを受け入れたのですが、そのインターン生が非常に興味深いことを言っていました。「ライフネットという会社は、ベンチャーだし、社長も副社長も本を出していて有名だし、この2人が引っ張っていっているものだとばかり思っていましたが、中に入ってみると、トップの2人は影が薄い」と(笑)。
元々、当社にいるのは、岩瀬が書いているブログ(※1)を通じて、「出口さんと岩瀬さんじゃ、保険会社なんてできっこない。手伝ってあげよう」と集まった人達なんです。みんな、私や岩瀬の言うとおりにするのではなく、自分の頭で考えて行動する人間なので、一般的な意味での「使いやすい部下」では決してありませんが、そういった「人とは違うことを考える人」に活躍してもらわないと、競争力なんて生まれません。
(※1)・・・岩瀬副社長の「生命保険 立ち上げ日誌」
私は、リーダーの要件は、目的があること、それを達成するために仲間を集める能力、チームをまとめ引っ張っていく実行力の3つだと考えています。
よく、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の主人公フロドを優れたリーダーに例えるんですが、フロドは“指輪を捨てる”という明確な目的を持ち、でも1人では実現することが難しいため、仲間を集め力を借ります。そして、みんなに助けられながら、最後まで諦めずに目的を成し遂げます。
助け合えるチームをつくることがリーダーの要諦なのです。会社が上手くいくという目的に向かって、つまり、当社の場合はマニュフェストを達成するという目的に向かって、色々な仲間が集まって助け合っているんです。
私は、大人というのは「自分で自分のご飯を食べることのできる人」のことだと考えていますので、まず大切なのは、自分自身の健康管理がきちんとできる、自己管理がしっかりしていること。
そして、自分の頭で、数字とファクトだけをベースに、ロジカルに物事を考えることができる、一言で言えば「自立」していることが、非常に重要です。自分で考えることができれば、目標を実現するために、どんな行動やコミュニケーションが必要かを理解し動くことができるはずです。
幸か不幸か、生命保険業界のライバルは非常に巨大です。自己資本が何兆円もあり、社員が何万人もいる。それに対し、当社は資本金が130億円、社員は70名。比較すると、当社の存在はほとんど皆無に等しい。そんな中で勝ち残っていくためには、人と違うことを考えられる強い人間をスタッフに採用し続けること以外に道はありません。既存の大手企業にとっては、自分達のマネをする会社なんて、何の脅威でもありませんよね。大手のマネをするような社員で溢れたら、当社の場合、あっという間に潰れてしまいます。
人間の生産性の向上や付加価値は全て大脳からしか生まれません。他人と違うことを考えることができるということは、大きな付加価値です。
「誰が何と言おうと、私はこういうデータとこういうロジックでこう考えるんだ」と、自分の頭で考えることができる「自立した人」を待っています。