アウトレットモールは1980年代に米国で誕生した新しい小売流通業の形態で、ショッピングのトレンドに敏感な方々が当時から観光で米国を旅行する際に利用なさっていました。1990年代には日本でも各地に同種の商業施設が展開されますが、2000年7月に当社がオープンした 「御殿場プレミアム・アウトレット」 が、我が国初の本格的施設として集客に成功し、その後の日本のアウトレットブームの象徴的存在として順調にビジネス規模を拡大し、各地に施設を開業・運営してきました。創業以来14年間、一度も前年を割ることなく、売上・利益共に安定成長を続けています。
米国のリゾートタウン的な街並みを模した広々として開放的な施設デザインを採用し、お客様は海外旅行先の街を歩いているような雰囲気の中、一日ゆったりと小旅行気分で内外の著名ブランドのショッピングを楽しんで頂けます。勿論各ブランドの商品は、常にリーズナブルなアウトレット価格で提供しています。
こうした非日常的な “ショッピング・エンターテインメント” を提供できる点が、当社の 「プレミアム・アウトレット」 ならではの価値と位置づけています。物販業ではなく、お客様に 「これにしようか」 「あれもいいかな」 と、ショッピングをする “過程そのもの” を楽しんで頂くこと、 “体験” としての楽しさを提供することに拘っています。
プレミアム・アウトレット開発・運営の基本となるビジネスモデルは、もともと米国のチェルシー・プロパティ・グループ (Chelsea Property Group) が開発したものです。当社は1999年7月、同グループと三菱地所、日商岩井 (当時) の3社が株式を保有する合弁会社 「チェルシージャパン株式会社」 として設立されました。 その後、2004年にチェルシー・プロパティ・グループが北米最大のショッピングセンターデベロッパーであるサイモン・プロパティ・グループ (Simon Property Group) に買収され、また2009年3月に当社の株主構成も変わり、三菱地所が60%、サイモン・プロパティ・グループが40%となりました。そして2013年2月、社名を三菱地所・サイモン株式会社に変更しました。
米国の専業大手が培ったノウハウをベースに、 「プレミアム・アウトレット」 の開業に当たっては、都心から一定の距離を持つロケーションであること、高速道のインターチェンジや幹線道路からのアクセスが至便で、近隣の商圏人口が一定以上あること等、明確なルールを設けています。リゾートタウンのような雰囲気の中でゆったりショッピングを楽しんで頂くには、都心を離れ、風光明媚で空気のきれいな場所という 「非日常性」 が不可欠であるからです。また、都市部に出店する各ブランドの正規店に対する配慮もあります。
センターを構成する店舗数は70店舗から80店舗、店舗面積では1万5,000㎡を最小の基準として開業しています。そしてリピーターのお客様にも新鮮な魅力を感じて頂くために、二期、三期、四期と段階的に施設を増床し、最終的に店舗数で150~200店舗、店舗面積3万~4万㎡の規模まで拡大を目指していくことが特徴だと言えます。御殿場プレミアム・アウトレットは、現在およそ210店舗の規模にまで成長しています。
私たちのコアバリューである 「プレミアム」 というコンセプトに磨きをかけていくことが全ての戦略の前提になりますが、一つにはお客様層の拡大があります。 「プレミアム・アウトレット」 の主要ターゲットは20代から40代のファミリー層及び若い女性層ですが、今後は購買力のあるシニア層、またこれまであまりショッピングに関心を持っていなかった男性層等、より幅広い層に向けての訴求が重要になると考えています。
また、少子高齢化が進み日本国内の消費人口が減少に向かう中、経済成長著しい東南アジアの国々 ―― 韓国、中国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア ―― から日本を訪れる観光客にプレミアム・アウトレットに立ち寄って頂くことが、成長戦略上の重要なテーマになっています。これは東京オリンピック開催年に当たる2020年に訪日外国人旅行者数を今の2倍の2000万人にするという国の観光政策にも沿っています。既に専任のプロジェクトチームを立ち上げ、訪日ツアーを企画する各国の旅行会社との関係づくりを強化し、当社施設でのショッピングを団体旅行の日程に組み込んで頂く等のマーケティング活動にも取り組んでいます。
国内9箇所のプレミアム・アウトレットにおいて、前に述べたターゲットを細分化した集客や周辺地域の観光資源とのタイアップ等を通じて今まで以上に施設ごとの特色を出していく戦略も強化していく必要があります。更にその先の将来には、国内では大型施設の立地が飽和することから、新しいコンセプトも求められ、例えば、地域密着型で中小商圏を対象にしたプレミアムな施設や、よりカジュアルなブランドを揃えた施設、エコロジーを前面に打ち出した施設等、さまざまな方向性の検討が現実味を持つと考えています。
アウトレットセンター全体の雰囲気を大切にしていますので、施設のデザイン面ではテナント様各店の看板のサイズや掲示方法一つを取っても、きめ細かい制約を設けています。セール等を開催する際にも、店舗スタッフが店の外に出て 「呼び込み」 をしてはいけない等のルールを徹底しています。
また、プレミアムな商業施設として百貨店レベルを超える接客サービスを提供したいと考え、人材教育・育成にも注力しています。ブランド各社では地域の方々を多数雇用しますので、各店舗のスタッフが参加できる 「接客ロールプレイングコンテスト」 の開催をはじめ、接客サービスの基礎研修の機会を提供しています。
いくら清潔で気持ちの良い施設があって、各店舗には高品質なブランド商品が豊富に揃い、しかもリーズナブルなアウトレット価格で提供されていても、ある店舗のたった一人のスタッフの接客レベルが低いだけで、全てが台無しになってしまう場合もあります。プレミアム・アウトレットのファンづくりという観点からも、お客様の期待を超える接客サービスが各店舗で担保されていることで、 「また来よう」 という気持ちになって頂けるのだと思います。
国内の各プレミアム・アウトレットの現場では、トップである支配人が施設全体の管理及び地方自治体への対応を担いつつ、施設管理担当マネージャーと総務精算チームをマネジメントしています。施設管理担当マネージャーはセンター全体の保守修繕から安全管理まで、現場の幅広いベンダーのオペレーションに携わります。総務精算チームは、各テナントの日々の精算管理及び施設の総務・庶務を担当します。
支配人の下には副支配人がおり、施設管理とともに営業部門を監督しています。営業部門にはテナントリレーションとマーケティング担当がいて、テナントリレーションは各テナントの店長とコミュニケーションを図り店舗の売上アップをサポートする役割を果たしています。マーケティング担当は、地域のバス会社との提携や地域イベントとのタイアップ等、施設への効果的な集客策を練り、年間を通じて運用します。
一方、本社には当社のアウトレット事業のあるべき姿をはじめ全社の経営方針を策定する経営企画部、土地を手当てして認可を取り、センターの建設を監理するデベロッパー業務を担う開発部、アウトレットセンターに出店するブランドを誘致するリーシング部、全社的なセールの企画立案やグローバルな視野で外国人観光客の誘致を促進するマーケティング部、各アウトレットセンターを管理する運営管理部、総務人事部、経理部があり、それぞれのセクションでプロフェッショナルな人材が活躍しています。
第二新卒的な若手を除き、その人の軸となるキャリアと一定のスキルは持っていて欲しいと思っています。とはいえ現在当社で活躍している人材の多くが不動産デベロッパー出身ということはなく、出身業界はとても幅広いのが特徴です。特定のバックグラウンドと言うよりも当社のアウトレット事業のコンセプトに共感して頂けるかどうかが重要だと考えています。プレミアム・アウトレットでショッピングを経験してとてもハッピーな気分になれて、こういう施設の運営や事業に携わってみたいといったモチベーションをお持ちの方は、当社に馴染み易いと思っています。
また、一つの職種をずっと極めたいといった志向の方ではなく、事業環境の変化に対して常日頃から準備しようとするスタンスを持ち、新しい経験に対して前向きに取り組める人、変化に際して自分のプロフェッショナリティを柔軟に変えていける人が望ましいと言えるでしょう。更にこれからのアウトレット事業では東南アジア各国からの観光客を獲得していくことが重要なミッションになりますので、グローバルな視野を持って多様性に富む環境に飛び込むことも厭わない姿勢が必要条件になってきます。
私は2年前の4月に当社の総務人事部に来たのですが、まず着手したのが給与水準の見直しです。当社の給与がどの水準にあるのか、世界的な人事コンサルティング会社に調査を依頼し、ベンチマークを設定して分析しました。
その結果を踏まえ、2013年の4月から現場・本社を問わず全社員の給与を一律10%引き上げ、日本に拠点を置く外資系企業の50パーセンタイルの水準に合わせました。金融機関を除いた、あらゆる業種の外資系企業のちょうど真ん中の水準ということになります。更に会社の業績が一定の水準に達した場合に臨時の報奨金が支給されるインセンティブ制度を整え、これを給与に算入すると日本の外資系企業全体の75パーセンタイルの水準になっています。
社員の誰もが胸を張って働くことのできる給与水準を確保すると共に、評価に紐付いた給与の計算方法をオープンにし、公正で納得感の高い人事考課の運用を目指しています。
また、もともと当社は事業規模に比して組織人員がスリムであり、専門性の高い少数精鋭の人材でアウトレット事業を全国展開してきた強みを持っています。しかし反面、各部門における業務の専門性が高いが故に、人材が固定化し組織が停滞する懸念もありました。全社員を対象に意識調査を実施してみると、85%もの社員がシングルキャリアではなくもっと多様な業務に挑戦したい意向を持っていることも判明し、先程お話しした部門間での人材異動の活性化に加えて、自ら社内の別部門のキャリアに挑戦できる 「公募制度」 も導入しました。
いい意味で外資系的であり、社員の誰もがプロ意識が高く、旧弊に捕らわれない自由な雰囲気を感じています。14年前、まだ日本にはなかった本格的アウトレット事業を形にしたベンチャー気質が残っており、 「いいと思ったらやってみよう」 といったカルチャーがあり、新しいことでもまずはチャレンジしてみて、ダメだったらそこで考える、といったフットワークの良さがあります。ただし、仕事を軸にプロとして生きているメンバーが多いので、何をやるにしても論理的な裏付けは求められます。
何より当社の置かれている環境の素晴らしい点は、継続的に事業が成長していることです。右肩上がりの増収増益の中では色々と新しいことを仕掛けるのに肯定的になれ、多少の冒険にも 「失敗したらどうしよう」 と萎縮せず、プラス思考で取り組んでいくことができます。
一方で、プレミアム・アウトレットの出店は、その地方の経済を支える程の大きな影響を及ぼし、観光客数の急増や数千人規模の新たな雇用の創出など、プレステージの高い事業として地域社会に認知されるようになりました。会社として組織も強化され、人事制度もある程度整ってきたので、日本企業的な安定志向を持って当社で長く働こうといった風土も醸成されてきました。
アウトレットセンターに足を運ぶと、私たちが提供するサービスがお客様にどのように受け取られているのかをダイレクトに見ることができます。ものすごい数の人が訪れてくれ、誰もが笑いながらショッピングを楽しんでいます。その姿を目の当たりにすることは、本当に楽しい経験です。自分たちはこういう仕事 ―― 人を笑顔にする、人々が幸福感を覚えるビジネスに携わっている、という実感が得られます。そうした仕事に主体的に関わり、喜びを見出したいと思う人には、当社には最適のビジネスフィールドがあると思っています。
ベートーベンの言葉ですが、「多くの人々に幸せや喜びを与えていく。それ以上に尊くて素晴らしいものなどない。」 という言葉があります。私たちのアウトレット事業に共感を覚え、新しいことへの挑戦を好み、自分から仕事に付加価値を加えて周囲の期待を超えていくような人と、是非お会いしたいと思っています。
最後になりますが、一人ひとりのやる気 「情熱」 をチ-ムとして 「組織」 で力を発揮する、それが三菱地所・サイモンのスタイルです。