今から90年前、1924年 (大正13年) に合資会社大阪金属工業所として創立され、飛行機用ラジエーターチューブをはじめとする様々な機械部品を製造しておりました。そして1951年 (昭和26年)、日本で初めてパッケージエアコンを開発したのが、ダイキンの空調事業の第一歩です。
この時、エアコン内で熱を運ぶ役割を果たす 「冷媒」 にフッ素系ガスを用いたことから、フッ素の持つ化学的な機能に着目します。そこからフッ素樹脂やフッ素ゴム、それらを用いた機能性材料を作る化学事業が育ち、現在ではフッ素化学分野では世界2位となり、空調事業と共にダイキンを支える大きな柱に成長しました。
機械製造の技術は、油圧機器及び特機事業にも受け継がれています。更に製造技術を高度化する中で産業用のロボット事業をスタートし、また設計ツールや開発支援ツールなどソフトウェア開発のノウハウを蓄積して電子システム事業を発展させました。
現在ではロボット事業からは撤退しておりますが、そこで培った制御技術やモーターの技術は、エアコンの省エネ技術に活きています。地球温暖化の抑制など環境への対応が求められる空調事業において、ダイキンの省エネ技術は強い競争力となっています。
日本市場から初めて海外市場に進出したのが1972年のヨーロッパです。そして、世界最大の空調市場であるアメリカへの進出を図りつつ、中国、アジアへと進出し、全世界を8極に分けてグローバル展開を遂げて参りました。
生産体制については、為替の問題を避け、物流コストを抑えるため、世界の市場の近くで生産できる体制を順次整備しました。ヨーロッパではベルギーとチェコ、アジアはタイとマレーシア、そしてアメリカ、中国、インド等に生産拠点を設けています。開発体制は、空調のコアとなる要素技術は日本で開発し、各国市場の個別ニーズに対応するレベルの開発は海外拠点が担う仕組みになっています。
販売網については、国や地域によってそれぞれ異なるスタイルがあり、直販と販売代理店のネットワークを組み合わせ、様々なビジネスモデルを構築しています。
ところがアメリカ市場だけは、これまでの成功モデルがなかなか通用せず、2006年以降、戦略的なM&Aによって米国空調大手2社を傘下に収めました。商品ラインナップの拡充を図ると共に、お互いの強みを活かしたマーケティングを推進しています。
そして、2010年度に売上高でグローバルNo.1を達成しました。現在、海外事業比率は売上高ベースで71%。ようやくグローバル各地域の売上規模が揃ってきた段階にあります
2015年を最終年度とする戦略経営計画 「FUSION 15」 に沿って、全社一丸となって邁進してきた結果、今ようやく目標達成の目途が立ったところです。国内消費の冷え込みや中国の経済成長の減速など、事業を取り巻く環境は楽観を許さず、ヨーロッパなどは本当にぎりぎりの所で目標達成に向けて努力を重ねています。
そんな中で売上高1兆9,500億円という目標を達成できる見通しが立ったのは、例えば家族を日本に残して各地に赴任して工場の立ち上げに奔走する社員たちや、「景気が冷え込んだから売れないのは仕方ない」 と諦めるのではなく、「どう工夫すれば売れるのか」 を考え抜いて行動に移す営業部隊など、全世界の社員一人ひとりの必死の取り組みの成果であるというのが実感です。
そうした挑戦する 「人」 の仕事を前提として、弊社では今後の成長に向けて 「環境技術」 と 「ソリューションビジネス」 という強化ポイントを打ち出しています。
家庭の電力消費においてエアコンと給湯器が占める割合は大きく、電気代の6割から7割を占めています。そこで、空調と給湯の機能を組み合わせて節電する技術で、総合的な省エネソリューションを提供しています。
また、地球温暖化係数の低い新冷媒 「R32」 を用いるエアコンの戦略的な開発・提供を、グローバル市場の多様なニーズに合わせて継続していきます。
ソリューションビジネスの一例としては、ビル計装ニーズへの対応があります。現在、国内の業務用空調市場の主要なお客様である建設業界では、ビルの電力設備や空調・給排水設備、防災設備などを別々に考えるのではなく、建物全体の設備を一元的に管理してエネルギーマネジメントを行うようになっています。こうした計装ニーズに合った機器やシステムを提案していく体制を強化していく計画です。
一位になった瞬間から追われる立場になり、日本や世界の競合企業が打倒ダイキンを掲げて猛追してきています。現状に安泰したら、すぐにトップの座から転がり落ちるという危機感を持っています。来期には売上2兆円超えという目標も掲げていますし、それも通過点なのだと認識しています。
経営トップの言葉を借りれば、2015年から先の10年を見据えた時には、まず 「事業モデルの変革」 が求められます。そのためには、空調の要素技術にこれまで以上に磨きをかけていくことが重要です。空調には、圧縮機、モーター、ファン、熱交換器、冷媒制御という5つの要素技術があり、これらの技術で世界一を追求し続けることで、新しいイノベーションの展開を図ろうというものです。
また、2015年に大阪府摂津市に施設が完成する研究開発拠点TIC (テクノロジー・イノベーション・センター) では、空調・化学・油機など異なる領域の技術者たちが集まり、お互いの専門性の融合による 「共創」 など、新たなイノベーションを生み出しています。現在、「水」 「空気」 「エネルギー」 といったテーマの下、未来のグローバルビジネスの芽となるような、新しい価値の創造を模索しています。世界に開かれた産官学連携の場としても、関連する技術領域の様々な研究室との協働を展開していく考えです。
2つめに、お客様のニーズを出発点としたマーケットインの発想を突き詰め、「事業ドメインの見直し」 を図ります。従来の家庭用エアコン、業務用エアコン、アプライド商品といった商品別の事業ドメインではなく、都市環境やエネルギーといった新たな切り口が必要になってくるのではと考えています。営業組織も、商品群別の縦割り構造から、より俯瞰的にビジネスを見て事業構造を再定義するタイミングに来ていると思います。
3つめが 「ソリューションビジネスの展開」 です。空調がほぼ100%普及し、世界有数の高機能、高付加価値商品が求められる日本市場に向けて、今後どのようなソリューションを提案していくのか。そこで新しい商品やビジネスモデルを確立することで、次にそれらをグローバル市場に展開していくことができます。
更にはアメリカや環境先進地域のヨーロッパ発で新しいビジネスモデルが生まれ、スタンダード化する可能性も広がります。既にヒートポンプ式の暖房と給湯器を組み合わせた 「アルテルマ」 は、燃焼式暖房が主流のヨーロッパで誕生し、日本や世界の寒冷地の空調ニーズへの新たなソリューションとして期待が高まっています。
昔から弊社では 「人の成長なくして企業の成長はない」 とよく言っています。ですから、フラットな組織運営をしてきましたし、目標設定もトップダウンではなく、現場の社員が喧々諤々の議論をして決めています。単に効率を追求する経営、数字だけを追う経営ではありません。ダイキンでは、常に事業に関わった人が成長していること、そして利益を生んでいること、両方が大切なのです。
人事としては、社員一人ひとりが会社の理念に共感した上で、事業計画を自分の仕事に置き換えて理解して、そこに向かって努力して欲しいと思っています。実績を上げた人には、報酬、新しい仕事、ポジションで公正に報いていく会社です。学歴や経歴など一切関係なくマネジメント職に昇格します。そういったフェアで風通しの良いカルチャーは、今後グローバルにもより浸透させていきたいと思っています。
「FUSION」 という戦略経営計画は5年タームで継続して見直しています。その際まず、営業の現場、事業の現場で社員それぞれが5年先の目標を立てます。そこで上がってきた現場の声を集約し、事業部毎に事業計画を立案し、経営企画室が集約し、経営トップと議論します。この時も紙で提出するのではなく、いつも人対人で議論することで最終形に落とし込んでいます。そうすることで、次の5年に向けた目標が、社員にとって納得のいくものになるからです。
社内では 「生・販・研一体」 と言っていますが、生産部門、営業部門、研究部門が一体となって商品を作り、販売していくカルチャーがあります。ですから、現場の営業マンが商品開発にも積極的に意見できます。市場から次の新商品のアイデアをキャッチできるのは、アンケート調査よりも営業担当者の情報収集力と感度です。各営業担当はダイキンの潜在的な技術を深く理解した上でマーケティングを兼ねた営業活動をしています。
「生・販・研合同会議」 が頻繁に開かれ、商品企画会議に研究や製造のメンバーが出ていたり、開発の技術テーマを考える会議に本部長・部長クラスだけでなく、各担当者が出席するのは、ごく日常的な風景です。トップダウンで部門長が摺り合わせ、それを受けて生・販・研のメンバーが別々に会議を開くスタイルでは、現場の社員が納得して動き出すまでに時間が掛かり過ぎます。このように生・販・研の距離が近いのは日本だけではなく、中国やヨーロッパでも同様です。
一言で言うと 「自由で野性味のある社風」 だと思います。その背景には、経営目標をはじめとしたいつもストレッチ――背伸びしないと届かない目標設定――と、社員の誰もがチャレンジしなければならない環境があります。
「FUSION 15」 が始まった時、弊社グループの売上規模は約1兆円でした。それを5年間で2兆円に伸ばそうとするのは、いくら現場からボトムアップした目標とは言え、普通はあり得ないストレッチだと思います。事業部門ごとに目標を捉え直し、それを各自が具体的な仕事に落とし込んだ時に、恐らく誰もが今の自分の仕事の領域、仕事のやり方では到底目標には届かないことが分かったはずです。誰もがチャレンジし続けることが求められました。
そうなると、挑戦心なくしては居心地が悪くなります。柔軟な発想で自分の仕事を見つめ直し、何度もチャレンジする人が認められる会社なのです。こういった環境で活躍する人を別の言葉で形容すると、「自由で野性味溢れる人」 となります。もちろん外見のことではなく、考え方の自由さであり、内に秘めた野性味のことです。弊社は、一律な人間の集まりではなく、極めて多様性に富んだ人材が揃っており、そこが組織として大きな魅力になっていると思います。
各事業の強化領域で即戦力となる経験者を求めています。弊社に持ってきて頂きたいのは特定分野の経験ですが、入社後に求めることは、これまでの経験を軸にして、業務の幅を思い切って横に広げる意欲です。
「自分はこの職種で採用されたのだから、このミッションは自分の仕事ではありません」 等とドライに考えないで下さい。貪欲に新しい領域に踏み込んで欲しいし、新たに学び取れることは学んで頂きたい。ある種の “あつかましさ” を持って積極的に組織に提言して頂きたいと考えています。
そもそも弊社では仕事の進め方があまりマニュアル化されていませんので、自由度が高く、新しい発想が活かし易い環境です。その反面、あまりに自由なので戸惑う方もいます。ですから、一旦これまで弊社内で成功してきた 「自由な」 やり方のメリットを謙虚に受け入れて頂きながら、提言できる部分はして頂きたいという希望があります。このバランスが上手く取れる人は、中途入社後に早くから成果を上げています。
現在、新冷媒 「R32」 や、家庭用エアコン 「うるるとさらら」 などのヒット商品のグループリーダーを務めているのは、キャリア採用で入社した30代の社員です。
例えば今後、計装ソリューションを担うグループに30歳の方が配属されたとします。その方が空調ニーズが複雑で要求品質の極めて高い日本の建設市場という環境で仕事を覚えたら、弊社グループが例えばブラジルやインドに新たな拠点を出すとなった際には、立ち上げメンバーとして赴任するチャンスが得られます。日本国内で培った高い専門の軸を持ちながらグローバルな環境で、拠点経営の視点を持って仕事の幅を広げて頂くことができます。
そのような志向をお持ちの方には、活躍の場が沢山あります。「いきなりグローバルビジネスはどうも……」 という方には、日本市場で重要なミッションをお任せします。いずれにしても日本で専門性をしっかり身につけてさえ頂ければ、仮に赴任先の言語ができなくても心配ありません。各国ローカルの従業員は、日本の技術を積極的に学び取りに来てくれます。ですからダイキンでは、グローバル人材=語学、ではありません。
私は入社以来22年間ずっと、人事本部で採用や育成に携わってきましたが、今思うのは、「人は皆可能性があり、環境次第で大きく変わる」 ということです。
早く成長できる人もいれば、大器晩成型の人もいます。人間には山ほどタイプがある中で、その多様性に合わせた人事制度にしていきたいと思っています。そうでないと一律の人しか生き残れなくなり、組織全体としては弱くなります。現在でも、失敗からの敗者復活はいくらでもありますし、雇用は65歳まで。65歳を超えて再雇用で働き続ける人も沢山おります。
だからこそ単に 「優秀な人材だから」 と採用するのではなく、「ダイキンのこの事業を、あの部長の下で担う人だから」 というマッチングを強く意識しています。上司との相性だけでなく、その人が力を発揮できるプロジェクトやテーマがその部門にあるのかどうかも重要です。入社後も陰ながら見守り続ける訳ですが、自分が採用に関わった人が、早くから海外に赴任する辞令を受けたことなどを知ると、「良かった、認められたんだ」 と心から嬉しい気持ちになります。私自身、今までこの仕事を続けてこられたのも、就職や転職という人生の大きな決断をする多くの人に接し、その方々がダイキン社員として成長していく姿に触れる経験ができたからだと感じています。
今後は、人事本部の若手メンバーの育成と共に、国内だけでなく全世界のダイキングループ社員に対して、会社の理念をしっかり浸透させ、ダイキンらしい人事制度を展開していく、というミッションを担っていきます。