久保氏:私たちのビジネスの原点には、グループの信託銀行の存在があります。中でも1959年に設立された東洋信託銀行 は日本でいち早く証券代行業務を手掛け、上場企業の株主名簿管理に伴う事務代行 において重要な役割を果たしてきました。
東洋信託銀行は、もともと野村證券と三和銀行・神戸銀行の都市銀行2行との合弁で設立された信託銀行です。当時は野村證券が主幹事として株式発行をお手伝いした上場企業をクライアントとし、順次シェアを拡大しながら成長してきました。その後、合併等を経て複数の信託銀行が一つになり、2005年に三菱UFJ信託銀行となっています。
現在、三菱UFJ信託銀行は、国内の証券代行業務において4割強のシェアを有する日本を代表する証券代行機関です。長年に亘って高いシェアを維持しながら、豊富な実務事例から専門性の高いナレッジを蓄積してきました。
久保氏:グループのシンクタンクであった旧・三和総合研究所が、「IRコンサルティング室」を設置したのが1998年。当時、日本企業の機関投資家向けSR/IR活動はまだ手探りの段階でしたが、いち早く上場企業に伴走してソリューションの提供に取り組んできた歩みがあります。
大串氏:私は旧・三和総合研究所の出身なのですが、後に弊社の常務執行役員を務めた人物が、アメリカで証券業務に携わった経験からIRコンサルティング室の立ち上げに尽力しました。これからは日本の上場企業も株主との対話やコーポレートガバナンスが重視される時代が来ると予見していたのですね。
久保氏:2005年、旧・三和総合研究所のIRコンサルティング室の機能を引き継ぐ形で、三菱UFJ信託銀行と世界最大級の証券代行会社であるコンピュータシェア社(オーストラリア)との合弁で、日本シェアホルダーサービス株式会社(Japan Shareholder Services Ltd.:略称JSS)が設立されました。
新会社としてスタートした当社は、内外の実質株主判明調査に基づき、クライアントである上場企業が機関投資家株主と建設的に対話するためのアドバイスを提供しながら、株主総会で国内・海外の機関投資家株主に適切な議決権行使をしてもらうためのSR/IR支援業務の提供を開始しました。また、クライアントが中長期的に企業価値を高めていくために、コーポレートガバナンスを軸とする各種アドバイザリーの提供にも取り組んできました。
久保氏:当社が企業として大切にしている考え方の一つに、「お客様の企業価値向上を通して資本市場の発展を支える」というビジョンがあります。これまで培ってきた顧客基盤と専門的なナレッジを活用して、企業が資本市場において機関投資家株主とどのような関係を構築していくべきなのか、中長期的な視野で提案出来るコンサルティング会社を目指しています。
2015年以降、我が国の資本市場では、株式を発行して資金を調達する企業にも、その企業の株式に投資する機関投資家にも、「対話」を基本とする行動原則が明確に定められました。まさに当社が長年に亘って磨いてきたSR/IRコンサルティングが求められる幕明けであり、幅広い支援ソリューションの真価が問われる時代を迎えています。
そのような中、「モノ言う株主」が、株主総会で議決権を行使して重要な議案に反対したり、場合によっては敵対的買収等の強硬手段に出たりと、企業経営を脅かすことがあります。そのため株主名簿の裏側まで調べ上げて株主構成を明らかにし、建設的な対話を重ねていく必要があります。
今後も継続して、株主総会の運営における総合的なサポートをする三菱UFJ信託銀行と連携し、株式の発行体である企業が内外の有力な機関投資家にどのように評価されているかを調査し、課題別にIR活動の指針を示す等のコンサルティングに取り組んでいきます。また、コンティンジェンシープラン(敵対的買収等の有事に備えた社内体制)の策定支援や、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の観点で事業活動のあるべき姿を示すESGコンサルティング等にも引き続き注力します。
久保氏:当社のお客様は、機関投資家株主比率の高い企業がメインになっています。資本市場における重要な戦略を提案するコンサルティングになりますから、日常的に相対する部門は社長直轄の経営企画部等が多くなっています。取締役や監査役といったボードメンバーに直接提案することも珍しくありません。
経営陣と向き合う当社側のチームは少数精鋭です。基本的にコンサルタントとアナリストの2名体制で顧客を担当します。
「今年の株主総会を無事に乗り切ろう」といった短期的なゴールと共に、中長期的な視点で個々のクライアントの企業価値向上に寄与する総合的なプランを設計し、提案していく必要があります。そのため、株主総会等の重要イベントに区切りがついてもコンサルティングの需要は絶えず、年間を通してクライアントの課題解決に向けて伴走する日々が続きます。
久保氏: 私たちコンサルティング会社の価値の源泉は、「専門性」と「覚悟」を持った人材になります。コンサルタント、あるいはアナリストとしての人材です。一例を挙げますと、資産運用会社等の機関投資家で運用に携わっていた人材は、これまでの経験を活かして即戦力に近い形で当社のコンサルタントとして活躍出来る可能性があります。今、チーフコンサルタントを務めている中禮がその代表選手です。
中禮氏:私は2年ほど前にキャリア入社しました。前職の資産運用会社では、ファンドマネジャーとして延べ13年ほど株式運用に携わっていました。とはいえ転職活動の段階では、企業と機関投資家の関係づくりを支援するコンサルティングであれば、前職経験が役に立ちそうだな……と思っていた程度でした(笑)。
今となってみれば、機関投資家の目で企業を見ることが出来る点は大きな強みとなっています。上場企業の投資家ターゲティングにおいて、「こういう投資スタンスを持った機関投資家に株主になってもらうといいのでは?」等のIR活動の提案ができます。またSRにおいては、「この機関投資家の議決権行使ではここに気をつけるべきです」等、出来るだけ具体的な助言をすることを心掛けています。前職経験のお陰で、多くのお客様が私の意見に真剣に耳を傾けて下さいます。
大串氏:一方で、アナリストを志望する方々の業界経験は問いません。お客様と一緒に考えることの出来る人、お客様と共に成長したいといった志向があれば大丈夫です。まずは実質株主判明調査業務で、株主構成/投資家の概要/投資スタイル等のレポート作成に取り組んで頂きます。あわせて、コンサルタントのSR/ IRコンサルティング業務のサポートもして頂きます。
中禮氏:若い人たちの育成という意味では、日常的な雑談の中でもちょっとした考え方のヒントを伝えるようにしています。資本市場は変化のスピードが速いので、例えば今は高く評価されている企業成長の指標が、近い将来にあまり重要ではなくなる可能性もあります。そこがこの世界の難しさであり醍醐味でもあるので、自分の経験値を惜しまずに伝えていきたいと思っています。
大串氏:正直なところ仕事は生易しいものではないですが、資本市場で話題になっている事案に深く関わることもあります。この点は私たちコンサルタントだけでなく、若いアナリストメンバーにも大きなモチベーションになっていると思います。
久保氏:若手のアナリストにとっては、実質株主を明らかにしてその機関投資家の投資スタンスを知ることが、上場企業の機関投資家との対話を支援するSR/IRコンサルティングに役立つということ自体に新鮮な驚きがあるようです。「世の中にはこんなビジネスがあるんですね!」という興味から、調査や分析業務の経験を積み、コンサルタントにステップアップするというのが一つのキャリアパスになっています。
中禮氏:コンサルタントの仕事では、アナリストが集めたファクトとしての企業情報をベースに、表面からは見えない潜在的な意味をどのように見出せるかが重要になります。「このデータから機関投資家はこういう見方をします」等、独自の見解を提示出来るかどうかですね。そこに、運用者としての経験を持つ私たちのようなキャリア入社の強みがあります。
久保氏:お客様に寄り添って大小様々な課題を自分事として捉え、短期・中長期の課題解決に向けて一つずつ力を尽くしていく仕事です。派手さはなく、地道な努力と堅実な対応が求められる業務になります。そのため、当社には誠実と着実を好む組織風土が醸成されており、そのような行動特性を持った人材がポテンシャルを発揮出来ているように感じています。
私自身は信託銀行の出身で、上場支援に関心があって証券代行業務に携わり、経験を重ねてきました。これまでのキャリアを通じて、若手時代から変わることなく大切にしているキーワードがあります。それは「心配するのが僕らの仕事」という言葉です。
例えば、ある企業の経営指標が一定の水準を超えて悪化している場合、機関投資家の判断によっては株主総会で現社長選任議案が否決されてしまう事態も考えられます。このような状況では、経営陣が適正な危機感を持つことが大切です。決して危機感を煽るのではなく、平時のうちから前もって起こり得るリスクを予測して対策を提言すること。それがSR/IRコンサルティングの重要な役割と考えています。
大串氏:お客様の支援における難しい局面で、久保さんからお客様に対して「心配するのが僕らの仕事です」との言葉を聞く機会がありました。本当に顧客を心配して考え抜く気持ちがお客様や我々チームに熱く伝わり、チーム一丸となり難局を乗り切れた経験を思い出します。専門性も大切ですが、個の想いや目的意識が問われる仕事であると思います。
中禮氏:SR/IRコンサルティングの特性上、お客様の決算期や株主総会のように短期間に集中しなければならない繁忙期はあります。しかし、それを乗り越えれば、多忙な中にも比較的自分のペースで仕事を組み立てられると感じていて、運用者時代に比べて心理的なプレッシャーを感じることは少なくなりました(笑)。
自宅でもストレスなくリモートワークが出来る環境が整備されておりますので、業務内容に応じて在宅勤務を織り交ぜながら、ワークライフバランスを意識した自由度の高い働き方が可能です。
大串氏:現在、社員の約50%は女性であり、育児休業も取得可能です。私はアナリストからコンサルタントに昇格した第一号の社員でもありますが、これまで仕事の中で男女の差を意識したことは一度もありません。お客様を支援するために、純粋にやるべきことに集中出来る環境があります。
久保氏:時代の流れの中で資本市場の発展に貢献するコンサルティングが求められ、当社のビジネスは急速に拡大しています。先ほど創業の礎となった組織のエピソードに触れましたが、当社は現在、第二の創業期を迎えていると言えるでしょう。
上場企業に起こり得る多様なリスクを中長期的に把握して、一つ一つ誠実に対応していくコンサルティングを引き続き発展させていきたいと思っています。日本を代表する大企業の経営トップから、直接感謝の言葉が頂けるような、社会的にも意義のある仕事です。
そのために、専門的知見と経験を備えた人材のキャリア採用を更に強化していきます。組織開発においても、トライ&エラーで新しいことにチャレンジしていく必要があります。今後、働く場として当社を選んで下さる全ての人材に、「日本シェアホルダーサービスで仕事をして良かった!」と思って頂けるよう、より魅力ある会社にしたいと考えています。