榊原氏:パナソニックの創業者である松下幸之助が、1923(大正12)年に電池式の自転車用ランプを考案、発売したのが当社の電池事業の始まりです。当初は他社から電池を調達していましたが、このランプを広く世の中に普及させるには、電池のコストを下げる必要があると考えました。そこで1931年、自社での電池生産をスタートしました。
その後、当社は使い切りの「一次電池」と何度も充電して使える「二次電池」をどちらも手がけ、充電器を始めとする応用製品等も自社開発する「電池の総合メーカー」として成長しました。
一次電池については、生産を開始してから70年になる2001年、乾電池の累計出荷数量が全世界で1,000億個を突破。
今では日本全国のコンビニやスーパー、家電量販店でパナソニックの電池をお買い求め頂けますが、グローバル市場においても戦略的に販路を拡大してきました。
二次電池については、当時は別会社であった三洋電機株式会社が、1963年に世界で初めてニッケルとカドミウムを使って繰り返し充・放電できる「ニカド電池」を開発したことがスタートになります。
その後、パナソニックと三洋電機は良きライバルとして切磋琢磨して二次電池の高品質化を競い合いました。
両社はより軽量で環境負荷の低い材料の検討を重ね、それぞれ1989年と1990年に「ニッケル水素電池」の開発に成功しています。
榊原氏:技術的に見ると、電池の材料や工法、構造等において数々の技術革新がありました。
一次電池については、当初は材料に水銀を使っていたマンガン電池も、環境負荷の低い材料に転換しながら改善を重ねて高容量化を実現し、より長持ちする電池の開発に成功しています。
その後、家電製品が進化し、更に大容量の電池が必要とされるようになります。そこで1992年には水銀ゼロ使用のアルカリ乾電池を発売。現在では「EVOLTA」のブランドに継承されています。
電池を背負ったロボットがギネス世界記録に挑戦し、世界一の長寿命を実現したCMを覚えている方もいらっしゃると思います。
また、マンガン系よりも高い電圧が維持できるリチウム一次電池の開発も、1971年からスタートしています。
二次電池においては、三洋電機が1994年、現在のデファクトスタンダードである「リチウムイオン電池」を開発しました。後にノーベル化学賞を受賞なさった吉野 彰博士の開発した仕様に独自の味付けを加え、負極材料に安価で安定的に調達できる天然黒鉛を使い、繰り返し充電した後の寿命も非常に長い電池です。
一方でパナソニックは2006年、取り扱いの難しいニッケル系正極材を高い技術力で使用可能とし、大幅な高容量化を実現する円筒形リチウムイオン電池を開発しています。
これらの電池はその後、携帯電話やノートPC、デジタルカメラ等への搭載が進み、携帯型エレクトロニクス機器の爆発的な普及を支えました。
榊原氏:端的な例では、双方の電池の良いところ……ニッケル系の正極材と天然黒鉛の負極材を組み合わせられるようになり、非常に大きなシナジーが生まれたと思います。
それに加えて、モノづくりの手法やノウハウの融合に向けて、幅広い技術領域で活発な議論が交わされました。
このお陰で、競争力の高い製品をコンスタントに市場投入することができ、現在のパナソニック エナジーの車載事業や産業・民生事業における強みの確立に繋がっています。
シナジーが結実した製品の一つに、2012年に米国市場に投入した円筒形リチウムイオン電池があります。EVの動力源として求められる高容量を確保しながら、どのような使用環境でも発火等のリスクがなく、確実な安全性を担保した車載用二次電池です。
上田氏:当社が誕生した背景には、パナソニックグループ各社の専鋭化戦略があります。当時グループ全体で30もの事業を展開していた中で、それぞれの事業が向き合う市場やお客様毎に合わせて経営判断をする自主責任経営を徹底することで、高い専門性をもって、これまで以上に製品やサービスでお役立ちを果たすという考え方です。
私たちパナソニック エナジー株式会社には3つの事業があります。
車載電池を提供するモビリティエナジー事業、一次・二次電池を提供するエナジーデバイス事業、データセンターや通信基地局の蓄電システム、IoT機器向けの電池等を提供するエナジーソリューション事業です。
当社はパナソニックグループの成長事業を担っており、従業員数はグローバル連結で約19,000名。2022年度の売上高は9,718億円で営業利益が332億円、これはパナソニックグループ全体の約12%にあたります。
榊原氏:事業会社化前から、例えば米EVメーカー向けの車載電池については、米国のグループ会社がきめ細かく対応していました。
しかし、特定の地域やお客様に対する最適化はできても、それを別の事業部や他の地域のお客様に活用する取り組みは十分とは言えませんでした。
今はパナソニック エナジー株式会社として、グローバルな組織を横断してタイムリーに情報を入手・活用できるようになりました。
全体最適の発想でモノづくりの戦略を立て、新たな電池開発や品質保証の仕組みを検討していく仕事のスタイルに進化しています。
上田氏:当社の現体制が発足する一年ほど前から、CEOの只信 一生(ただのぶ かずお)が中心となり、新会社立ち上げプロジェクトを推進してきました。
改めて自分たちの存在意義を見つめ直し、企業として何をすべきなのかを徹底的に議論しました。
そこで策定されたのが、Our Mission, Vision and Willであり、パナソニック エナジーが企業として果たすべき「使命」と将来の「展望」、それを実現させる「意志」を表しています。
・Our Mission
幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現。
・Our Vision
未来を変えるエナジーになる。
・Our Will
人類として、やるしかない。
ミッション・ビジョン・ウィルを策定する過程では、プロジェクトのメンバーは会社の会議室を出て原生林が残る岡山県の山間部に位置する農業と林業の郷、西粟倉村(にしあわくらそん)を訪れています。
豊かな自然の中に足を運び、持続可能な環境と人間の営みの調和について多くのことを感じたそうです。その体験を社員にも広め、理念の浸透を図るため、「森の会議」と名付ける1泊2日の社内イベントを継続的に開催しています。
榊原氏:私も「森の会議」に参加しましたが、実際に自然の中に身を置くと、植物や動物、虫や微生物が調和して生態系が構成されていることが分かります。この環境を子どもたちの世代に残すために、今自分たちは電池をどう作るべきなのか。色々なことを考えさせられた会議でした。
上田氏:資本主義の世界では、これまで基本的に幸せの追求に重きを置いてきたと思います。電気を持ち運べる電池を作り、私たちの生活は便利になりました。ですが、便利で幸せな生活のために自然環境を破壊していいわけではありません。幸せを求める人間の営みと持続可能な環境を両立させ調和させるという、二律背反の課題に挑戦しなければならない。これが当社のミッションの意味だと解釈しています。
困難なミッションを実現するため、自分たち一人ひとりが原動力になろう。これが、「未来を変えるエナジーになる。」というビジョンです。
そして、取り組みの過程で壁にぶつかっても、仲間と共に笑って突破する気持ちでやり抜く覚悟が大切。事業活動と持続可能な環境との調和は、「人類として、やるしかない。」からです。
榊原氏: EV向けの電池市場の規模を容量ベースで見ると、現時点では北米・欧州・アジア市場を合わせて1,000GWh(ギガワット時)に届くかどうかという水準です。
今後も市場規模は右肩上がりに拡大し、2030年には現状の約4倍になると予測されています。
自動車産業は100年に一度と言われる構造転換の真っ只中にあります。電動化の流れの中で各国の完成車メーカーが高い目標を定める中、私たち電池メーカーには総需要に対してどこまで供給できるかが問われています。
上田氏:パナソニック エナジーの生産能力は、今は日米の工場を合わせて50GWhほどです。これを2030年度には現状の4倍、200GWhを確保する目標を掲げています。ですが実際には、もっと高い目標を目指さなければならないのでは? と思います。
榊原氏:当社の戦略としては、強みとする円筒形リチウムイオン電池の良さ、すなわち高容量で安全性が高い点を理解して下さるお客様と、引き続きしっかり向き合っていくことがポイントになります。
電池調達においてコスト効率を最重視する市場で競うのではなく、世界最高水準の電池の性能と安全性を強みとして北米市場でナンバーワンの地位を堅持しようということですね。
そのため現在、来年度の市場投入に向け、容量が約5倍となる新しい電池(4680サイズ:直径46㎜、高さ80㎜)を開発中です。高容量化によって1台のEVに搭載するセルの本数が減らせるメリットがありますが、確保すべき安全性のレベルは高くなります。様々な観点から品質管理を徹底し、量産体制の確立に向けて検討を重ねています。
上田氏:当社の売上高は現在1兆円弱ですが、2030年には3兆円を目指しています。この目標の達成に向けて、日本国内で年間約300名のキャリア採用を計画しています。
そのうち約8割が開発技術、生産技術、品質保証等の技術系の職種になります。
基本的な考え方として、電池業界に限定することなく幅広い業界出身の方とお会いできればと考えています。
前職での業界や経験年数に関わらず、学生時代に化学系、機械・電気系、情報系のバックグラウンドをお持ちの方には、それぞれご活躍頂けるフィールドがあります。
電池事業とは、世界中から化学物質を調達して電気を貯めやすい形にパッケージし、顧客が求める品質を担保、安全性の制御をかけて納めるビジネスです。
従って、電池材料のサプライヤーでもある化学メーカーを始め、食品、半導体、機械、電機、自動車、鉄鋼と多様なモノづくり企業の出身者がそれぞれの経験を活かして活躍しています。
IT人材には組み込みソフトの開発だけでなく、情報システム部門で全社のDX推進に手腕を発揮して頂くニーズもあります。
また、2023年度からは「技術・ものづくりアカデミー」を開校し、キャリア入社の人材が電池に特化した技術を自律的に学べる機会を提供しています。当社の認定する技術者による約半年の実践的プログラムを通じ、電池業界は初めての方でも短期間で専門知識やスキルを身に付け、無理なく自走できるよう支援しています。
榊原氏:モビリティエナジー事業部の品質保証部は、車載用の円筒形リチウムイオン電池の製品ライフサイクルを通じた品質保証、品質管理をミッションとする約100名の組織になります。そのうち約20名がキャリア入社のメンバーです。
基本的な考え方として、何か品質上の問題が発生してから動くのではなく、問題を起こさないために「設計やモノづくりがどうあるべきか」に遡って対策を講じています。
不良が出れば取り除くとの発想では、お客様にとっての品質は保証できますが、不良品を廃棄することは貴重な資源をムダにすることです。当社は「不良がゼロになるモノづくり」を目指しています。
こうした考えに沿って部内に4つのグループを設け、それぞれ役割を明確にして活動しています。
1つは日々の工程管理に特化し、改善を重ねるグループ。2つめはお客様と向き合って様々な市場情報をキャッチし、設計やモノづくりに反映していくグループです。3つめが事業部としての品質戦略や品質管理の新しいルールづくりを担っています。4つめが技術部門との混成チームで、より上流の設計段階から電池の品質を担保する方法を検討することをミッションとしています。
4グループの取り組みの相乗効果で、お客様の要求を超える品質が担保できるケースも増え、当社ならではの付加価値が生まれ始めていると思います。
榊原氏:前職は電池業界ではありませんが、海外工場で開発を経験されていた女性が、欧米流の合理的な仕事のスタイルを取り入れながら当社の品質保証のあり方を良い方向に変えています。
この人材は日本的に「曖昧な部分」を残さず、論理的な根拠を示して改善すべきところを指摘し、最短コースでモノづくりのあるべき姿を実現するためのアクションを取っています。
また、電池材料のサプライヤーから転じ、品質戦略の策定等を担当している女性もいます。電池の生産工程を支える複数の部署とコミュニケーションを重ねながら、新しい品質管理ルールの導入を推進中です。
これまでのやり方が根付いている生産ラインに足を運び、現場の管理職が納得できるまで説明・説得する等、新たなレールを敷く業務に根気強く取り組んでいます。
2人とも前職での経験は7、8年ほどですが、これまでの経験や培った知見をフルに活用しながら、当社の品質保証のあるべき姿を体現しつつ取り組んでいます。当初は少し軋轢もありましたが、現在では社内の複数部署から「当社が今やるべき変革だと納得できた」「彼女たちと仕事ができて勉強になった」等の評価を貰っています。
上田氏:望ましい専門知識やスキルについては、職種や配属部署によって異なってきます。しかし、どのような仕事をお任せするにせよ、先ほどご説明した当社の「ミッション・ビジョン・ウィル」に共感できるかどうかが大前提になると考えています。
急成長・急拡大している電池市場は変化が激しく、お客様からの要求も高いため、正直言って困難な仕事も数多く経験します。ミッション・ビジョン・ウィルを自分ごととして捉え、どのような状況でも仲間と力を合わせ、楽しみながらやり遂げるような情熱が求められると思います。
榊原氏:やはり、活躍しているのは前職での経験や培った知見をフル活用して仕事に臨めるような人であると思います。
現状の社内のモノづくりのルールや仕組みを当たり前の慣例と受け止めるのではなく、第三者の客観的な目で変えるべきところは論理的な根拠を持って指摘してほしい。現場の情報やデータを正しく読み取り、自分なりにモノづくりのあるべき姿を考え、実現に向けて動いて貰えると嬉しいですね。
もちろんチームごとにキャリア入社して日が浅いメンバーとのコミュニケーションは密に取っています。
また、担当レベルで解決が難しい事案については、私を含むマネジメントの役割として、各部署の上位管理職にエスカレーションする等のサポートも引き続き果たしていくべきだと思っています。
上田氏:CEOの只信は、パナソニック エナジーを「2万人のベンチャー企業」と形容しています。パナソニックグループの中でも特筆すべき収益性と成長性を有し、各部門における様々な改革に向けた意思決定のスピードも非常に速い。
只信はしばしば、「みんな役割はあるけど役職なんてないんだよ。僕は社長という役割をやっているだけ。」と話しています。社員と経営陣との距離が近く、誰もがフラットに対話できる組織だと思います。
また、当社の電池事業、特にEVに搭載する円筒形リチウムイオン電池の位置付けは、成長性という意味で日本の製造業における最後の砦の一つなのではと自負しています。
これから当社にジョインすることは、他の企業ではまず経験できないダイナミックな事業成長に身を投じることです。ある意味カオスの中で目標に向かって走っているようなステージではありますが、入社後の取り組み方次第で、個々人の成長も加速されるのではないでしょうか。
榊原氏:自動車の電動化は、社会的にも意義のあるチャレンジだと思います。環境問題に真正面から取り組む仕事でもあり、この点は私自身にとって大きなモチベーションになっています。自分の子どもにもそのように話しているほどです(笑)。
まさに時代の変化の中に飛び込んで自分の足跡を残す仕事ができるので、技術者冥利に尽きると感じています。
車載事業のトップである事業部長は、「失敗してもええから、チャレンジするんや」が口癖です。「現状維持でどうする? チャレンジせい」とよく言っています。これに対して私たちの部門は「品質」の面で顧客の期待を超える付加価値を創り出すことだと理解しています。
将来的に掲げている大きな目標は、今後EVが普及した際、市場で私たちの電池に起因する問題が起こる確率を1兆分の1未満に管理できる状態にすることです。そのために品質保証の体制はどうあるべきなのかを共に考え実践したい。そのチャレンジにぜひ挑戦したい方と出会えることを楽しみにしています。