東証一部上場 株式会社ベネッセコーポレーション 人事部
一部上場 コンビニチェーン 直営店店長
↓
Web・人材関連サービス企業 人事部
澤 和宏 氏 30歳 / 男性
学歴:早稲田大学 政治経済学部 経済学科 卒
一橋大学 大学院 商学研究科
経営学修士コース(MBA) 卒業見込み
「たとえ小さな組織でも、自分で直接経営に関わる仕事がしたい」。それが、学部を卒業した後、私が大手コンビニチェーンに就職した理由になります。入社後1年で直営店の経営を任されるようになり、当初の私の希望は実現しました。当然、極めて厳しい環境ではあったのですが、自分で考えて戦略を練り、人を雇い組織化して目標を実現していく面白さは、想像通りのものでした。しかし、店舗の経営に携わる中で次第にズレも生じ始めていました。自分の強みや興味関心は「長期的な視点で組織を動かす仕組みを作ること」だったのに対し、直営店では「短期的な売上」を軸にして配属も次々に変わっていってしまう状況でした。ひとつの組織に腰を据えて、人や組織に関わる仕組みづくりに携わりたい。そういう思いが募る中で、入社3年目の夏に1回目の転職を決意しました。
転職先は急成長中であったWeb・人材関連のサービス企業でした。入社当時の従業員数は100名強で、全社が見渡せると同時に経営者の直ぐ近くで人事の仕事ができるという点に惹かれて入社を決めました。中心業務は新卒採用で、拡大する業容に応じていかにして優秀な人材を確保するかが大きな課題でした。非常に忙しい仕事でしたが、仕事を任される範囲も広く、かなり恵まれた環境だったと思います。しかし、極めて早い成長の中で、次から次へと浮かび上がってくる課題に対し、行き当たりばったりで対応する限界も感じていました。人事という狭い枠の中だけで考えるのではなく、経営という視点から広く問題を考え解決できるようにならなければならない。30代を通じて、そういうスタンスで人事の仕事に関わりたい。その思いを実現する手段として、私は国内MBAへの進学を選びました。転職後4年目のことでした。
MBA学生として具体的な転職活動を始めたのは2年目の夏でした。大学で紹介されたエージェントに登録し、簡単な面談と職務経歴書・英文履歴書の作成を行いました。本格的な活動を始めたのは11月の半ば頃からです。最初に行ったエージェントの反応の遅さに不安を覚え、別のエージェントへも同時に登録し、転職活動を進めました。ここからは2件ほど案件を紹介され、実際に選考へも進みました。このエージェントは案件を絞ってサポートを厚くする方針だったらしく、案件の少なさからもう1つ別のエージェントをと思い登録したのが、(株)エリートネットワークになります。前職の中途採用の仕事を通じて名前を知っていたのと、MBAなどハイクラス求人に強そうなイメージがあったことが登録した理由です。
同社の良かった点は、2点あります。ひとつは豊富な案件を紹介してくれたこと、もうひとつは素早い対応を常にしてくれたことです。自分からあれこれ催促して、自分のペースで活動を進めていきたいと思っていた自分にとって、これは非常にありがたいことでした。その一方で、面接などへの具体的なアドバイスや、面接後のフィードバックなどは他社と比べてそれほど差異はなかった気がします。この辺りはエージェントの特徴を上手く知ったうえで使い分けることがむしろ重要であって、一概に良し悪しを判断するのは難しいと思います。また、MBAの同期も似たように複数のエージェントを使っていましたが、同じエージェントでも担当者が異なると対応も全く異なるので、担当者ベースで自分の求めるニーズに合った人を選ぶ努力が必要かもしれません。
現役MBA学生として転職活動をしてみて、まず感じたのは「MBAより前職のキャリア」が重視されるという事実です。これは入学前から分かっていたし、改めて説明するまでもありませんが、極めて重要なことです。もちろん、面接でもMBAのことは聞かれます。でも、たいていそれは前職のキャリアとの関係においてMBAへの進学理由やそこでの学びを問うものであり、またMBAが前職と将来のキャリアとをどう繋ぐのかを問うものになります。したがって、MBAそのものがキャリアとして評価されるということはほとんど無かったと感じています。本当に多少ですが、書類選考が通りやすかった印象はあります。ですが、ただそれだけであって、その後の選考過程ではそれが有利に働くことは無いように思います。
私の場合、前職で人事の経験があった上で、事業会社の人事職か人事系のコンサル会社への転職を目指していました。ですから、キャリア的には前職とかなり繋がりの深い分野への転職であったことは事実です。しかし、転職活動では大いに苦戦を強いられました。その最大の原因が、専門性の少なさです。MBA以前にも転職経験があるため、人事としての経験は3年半しかありません。しかも、小さな会社でゼネラリスト的に人事の仕事をしてきたため、人事業務の中での専門性も深まっていません。MBAで組織人事の分野を専攻していましたが、それがここで言う専門性に含まれないことは言うまでも無いことです。それでいて、MBAの2年間のお陰で、年齢的はちょうど30歳ですから、転職先では即戦力としての専門性が求められます。コンサル会社では特にその要求が高かった気がします。
このように、前職のキャリアとMBAとの関係の中で、厳しい転職活動を強いられました。しかし、こうした私のキャリアと思いをきちんと理解してくれる企業があったことも事実です。MBAで自分が学んだ経験を、今度は企業の中での社員教育に活かしたい。経営の視点を持って、人事的な課題の解決に携わりたい。今回、事業会社の人事部門で、しかも教育研修の担当として入社を決めることができたのも、そうした思いを理解してもらえたからに他なりません。
海外のMBA事情は全く別かもしれませんが、少なくとも国内MBAに関しては、まだまだ企業側の評価が定まっていないのが実情です。また、MBAはキャリア形成にとって決して万能ではなく、実務能力を保証する資格でもない単なるひとつの学位に過ぎません。ですから、MBAへの進学で、大きなキャリアチェンジが出来るかと言えば、それは極めて困難だと言えるでしょう。むしろ大切なのは、前職からの延長線上にMBAをどのように位置づけることができるのか、ということです。「理想の姿」と「現実の姿」との間のギャップを埋めるために「MBAがどう役に立つのか」をしっかりと考えて、MBAへの進学を検討してもらえればと思います。
MBAは取得することに価値があるのではなく、取得した後で企業や社会の変革を実現したときに始めて価値が生まれるものです。私自身も今回の転職活動を通じて、自分の思いを実現するために必要な舞台に立つことが出来ました。MBAとして、また一個人としての真価が問われるのはまさにこれからです。転職先の企業で成果を出すことはもちろん、その成果をもって社会に貢献できるような仕事を、30代を通じて成し遂げていきたいと考えています。
転職活動の成否を分ける鍵は、恐らく自分自身にあると思います。もちろんエージェントの選定は重要ですが、それは単にひとつの要素に過ぎません。自分をしっかり見つめて、自分の軸を定め、周囲の余計な情報や声に振り回されないようにしなければなりません。そこさえ確かなら、エージェントはきっと強力な味方になってくれるはずです。これはMBAも同様です。悔いのない転職活動になることを、心から願っています。