メーカー海外事業推進担当の転職活動

メーカー海外事業推進担当の転職活動

No.489
  • 現職

    東証一部上場 メーカー 海外事業部門

  • 前職

    東証一部上場 メーカー 経営企画

白川 洋平 氏 38歳 / 男性

学歴:私立大学 国際学部 卒
私立大学 大学院 博士後期課程 修了
体育会所属 TOEIC900点以上

「もうこの会社は持たないかもしれない」そう思い始めたのはいつ頃だっただろう。最初は2007年に覚えた小さな疑念に過ぎなかった。それがどんどん大きくなり、疑念が予感になったのが2009年、予感が確信に変わったのは2011年に入ってからだった。

「長く勤められる会社に入りたい」大学院を修了した時の私はそう考えていた。いくつかの内定をもらったのだけれど、その中で一番将来性のありそうな会社を選んだ。ニッチではあるけれど、最先端の技術力で勝負しているメーカーで、世界2位のシェアと非常に強固な財務体質を誇っていた。「この会社に骨を埋める」そう決意して入社した会社だった。仮に社名を「シャニー」にしておこう。

入社してからは、経営陣の覚えもめでたく、常に経営課題の最前線に立たせてもらった。トップダウンの実現とボトムアップの吸い上げを同時に要求され、苦しいこともたくさんあったけれど、とても有意義な時間を過ごせた。社内の改革が一段落すると、最大の激戦区である中国に送り込んでもらい、お客様とも直接かかわることができた。

でも、この頃から少しずつ周囲の状況が変わり始めていた。「最先端技術のシャニー」と技術陣は自社の製品を誇り、経営陣もそう言い続けていた。でも中国でお客様と接していると違和感があった。お客様は、そこそこの性能と機能は必須だけれど、価格が第一だと考えていた。いくらMTBA(平均故障間隔)を主張しても、製品寿命を力説しても、中古製品として放出した際の価値を論じても、初期価格で勝てないシャニーは中国で明らかに競合に押されていた。「技術のシャニーよりも価格のLFN(仮名)」を選ぶお客様の多さに驚かされた。「シャニーは技術者も経営陣もお客様の要求を誤解しているのかもしれない」2007年に抱いた小さな疑念だった。

疑念が予感に変わったのは2009年だった。リーマンショックの煽りを受けて市場価格が崩壊し、その上に極度の円高を受けて円ベースでの製品単価は下落の一途を辿った。シャニーは原価低減を遮二無二続けていたが、価格下落に全く追いつかない。シャニーの製品原価はLFNの販売価格を上回るようになっていた。上海子会社の業績も一挙に悪化し、駐在員を帰任させてスリム化せざるをえなくなった。「もう一度本社の立て直しに尽力したい」と訴え、帰任することとなった。

予感が確信に変わるまでに時間はかからなかった。2年半ぶりにみた本社は、完全な負け組会社だった。給与カットによって士気は低い。一方で財務体質が健全でリストラをしていないから誰も本当の危機感は持っていない。原価は下がらず、円高によって収益構造は悪化の一途を辿る。原価低減に注力するあまり、ついにお客様から「シャニーさんも随分と技術力が落ちたね」と言われてしまう始末だった。

起死回生の策として会社が選んだのは、生産機能を海外に移転することだった。しかし、これには2つの悲しいストーリーしか私には見えなかった。純粋なファブレスではないけれど、生産機能の大半を外注しているシャニーは、自社工場だけを海外に持っていっても原価率の改善は望めない。それでは価格競争に勝てず、市場から追い出される。これが悲しいストーリーの1番目。

もう一つは、研究開発からアフターサービスまでの機能の大半を海外工場に持っていくこと。しかしこれは国内の大幅な人員削減を伴う。これが悲しいストーリーの2番目。どちらをとるにしても、もうこの会社で笑顔で働くことはできないと思った。何度も検証して、この2つしか残されていないと確信した時、「転職しよう」と決意した。2011年5月、ゴールデンウィーク中に心が決まった。

まずは自分がどんな仕事をしたいのか、またどんな仕事ができるのかを考えてみた。自分の強みは、1)問題・課題発見→分析→実行→検証→システム化という企画能力、2)海外・国際経験、3)コミュニケーション能力、の3点だと分析した。これらは、シャニーでも高く評価してもらっていたし、職務経歴書を作る際にも強調するようにした。

業界には全くこだわらなかった。確立されたブランドを持っているとか、メーカーであればコアとなる技術や製品、サービス業であれば独自のビジネスモデルなど、成長の源泉となるものを持っていることを企業選びの基準にした。シャニーで味わった「自分が勤める企業が消えてゆく経験」を二度としたくなかったから。

ゴールデン・ウィークが明け、大手数社に登録した。最大手のR社、シャニーもつきあいのあったI社、外資系に強く業界3番手と言われていたJ社、広告が目立つT社の4社にした。結果論から言うと、これは大失敗だった。これは担当してくれたキャリアコンサルタントさん個人の資質にもよるのだろうけれど、大手は基本的に面倒見が悪い。基本的には最初に紹介してくれたところでうまくいかないと、その後のフォローや案件紹介が非常に少なくなる傾向にある。ただ、J社だけは最後まで面倒見が良かった。

そして、これらの会社から紹介された案件は全部受からなかった。某IT企業では「面接の印象は良かったけどより業界親和性の強いライバルがいた」と言われたし、メーカーの海外人事では事前に言われていなかった履歴書用写真を準備していなかったことを理由に「志望動機が弱い」と言われてしまった。「社内異動で対応することにした」と案件がクローズしたこともあったし、「年齢と比較して実務経験が少ない(大学院に長く通っていたため)」と断られたこともあった。「先に選考を進めている人に内定を出したので」という断られ方もした。面接当日に「社風に合わない」と一刀両断されたこともあった。社長面接まで進んで「何となく」という理由で断られた時には流石に落ち込んだ。私ひとりに対してよくぞこれだけの断る理由があるなぁと感じるほど多種多様な理由でお断りされた。

ここで一つ学んだことは、30代後半という年齢に達してしまった自分では「業界は問わない」という姿勢は意味がないということ。自分が思わなくても、選ぶ企業側の方が「業界親和性」を重視してくる。業界親和性があっても落ちる時は落ちるのだが、受かるところは基本的に現職に近いメーカー系だった。

そして、転職活動を開始して約3カ月経った頃、大手の人材紹介会社だけに登録していることに問題があるのではないかと考え始めた。仕事が一段落して残務整理も見通しがついてきたところで、リクナビNEXTや日経キャリア、人材バンクネットなどの自分で求人情報を検索するサイトも覗いてみることにした。結果的にはこれが転職活動の一大転機だった。

現職の人事部の人と話した時に、「人が足りなくて大量募集をかけたいのに、なんで数社しかつきあわないんだ」と現場の立場から問うたところ、その答えは「大手のR社、I社、J社で全求人情報の8割を占めているから」だった。それを盲信していたのだけれど、それが間違いだということに気付かされた。

(株)エリートネットワークさんもそのうちの一社になるけれど、規模としては大手とは言えない人材紹介会社だけが持っている求人情報が現にたくさん存在する。私の場合は、大手のみ登録していた時には瞬間最大風速で7件だった応募企業数が、一挙に30社を超えた。一時は書類選考を通った企業が10社以上もあり、時間のやりくりに苦労したくらいだ。

ここであるキャリアコンサルタントさんがしてくれた謎解きは、「大手は多くの企業に口座は持っていても、必ずしも全部の求人情報をつかんでいる訳ではない」だった。これはけっこう真実かもしれない。時間があって転職を急ぐのであれば、多くの人材紹介会社に登録した方が確実に多くの情報を得ることができると感じた。実際に30件以上の書類選考を抱えていた時も、2社以上から同じ案件を紹介されるのは非常に稀だった。通算で約60社に書類を出したと記憶しているけれど、2つ以上の紹介会社から同じ案件を紹介されたのはたぶん6件しかない。

更に具体的な例を挙げると、瞬間最大風速の12社の書類選考通過時の内訳は、
2社=ハローワーク経由 2社=リクナビNEXT経由 1社=日経キャリア経由 1社=大手人材会社経由 であって、残り6社は比較的規模の小さな紹介会社経由だった。具体的には、日経キャリアや人材バンクネットで自分に合った案件に応募すると、その案件を扱っている人材紹介会社さんに登録するようになる。私は最終的には10社以上登録したことになると思う。

とにかく、紹介案件数が爆発的に多くなり、書類選考通過数も増え、私の転職活動は明らかにスピードアップした。そして、書類選考通過数が増えてくると、自分が行きたい企業や、やりたい仕事からみて、紹介される案件を自分で選ぶ余裕が出てきた。私の場合は「国際的に展開している企業で国際経験が積めること」「現状を維持する要員ではなく新規に何かを始める要員であること」が第一志望群と第二志望群を分ける要素として自分の中ではっきりとしてきた。

9月に入ると、それらの企業での面接が始まった。
面接は2つのタイプに分かれる。職務経歴書を基に面接官が質問をしていくパターンと、自己紹介を含めての形で自分で職務経歴を説明するパターンだ。前者ならばあまり考えなくても良いのだが、後者だと「いかに自分が募集案件に合っているか」をアピールすることが必要になってくる。

私の場合は、必ず前日にその企業のウェブサイトを全部チェックして、募集要件を確認し、自分の職務経歴の説明に濃淡をつけるようにした。国際経験を求めている企業には中国駐在をアピールしたし、経営企画系のポジションでは社内改革の成果をアピールした。これは私が10年間で4つの異なるポジションを経験しているからかもしれないが、とにかく「自分がこの求人にマッチしている」とアピールするために自分の経験で求人内容にマッチすることを強調することは重要だと思う。

それと自分の話し方に下手な変化を付けることは止めることにした。私は比較的ロジカルに冷静に話をする方なのだけれど、その話し方で次のステージに進めることもあれば、先に進めないこともある。結局は面接官との相性の問題なので、下手に自分を偽ってもそれが正解かどうかは分からない。あくまでも自然体で自分らしくアピールをして、それでダメならば仕方ないと思うことにした。

結局、大手以外の人材紹介会社さんにも登録し始めてから、1カ月ほどで3つの内定を頂くことができた。(株)エリートネットワークさんからご紹介頂いた会社に決めたのだけれど、内定を頂いた3社を比較すると以下のとおりとなる。

(株)エリートネットワークさん経由
メーカーの国際管理業務。海外進出の拡大を図っていて、それに携わることができるポジションというところに惹かれた。直属の上司になるであろう方も好印象だった。収入面だけを考えると3社中で最も条件が悪かったが、業務内容と将来性に賭けることにした。

お断りした企業1
職務経歴書を見て、社長さん自らが「この人には自分が会う」と言って社長面接からスタートした。仕事内容は興味深く、また待遇面でも3社中では一番の条件を示してもらった。社長面接の場で内定を頂いたのだが、平均勤続年数が4年と短く、即断即決は良いが切られる時も速いと思い辞退した。業界自体の将来性にも疑問があった。

お断りした企業2
福祉系の会社での経営企画職。海外経験が積めないことと、電話でしか面接日程を連絡してこず、日程を勘違いして面接日に伺わなかったのだが、電話連絡も貰えなかった。次の日に伺って日程をどちらかが勘違いしていたと判明し、再面接を設定してもらい、内定まで至ったが、上記のような経緯から「どうしても来てほしい」という熱意が感じられずに辞退した。

最終的には、(株)エリートネットワークさん経由の会社に決めたのだが、お断りした企業1との比較では迷う部分もあった。年収面では魅力的だったし、その企業の方が責任のあるポジションを提示してくれていた。

ここで最終決断をするのに役立ったのは、(株)エリートネットワークさん以外のキャリアコンサルタントさんで、面倒見の良い方と知り合えていたことだった。(株)エリートネットワークさんを信用しないわけでは全くないが、やはり第三者の中立な立場でどちらの企業が自分にとって有利かという意見を貰えたことは非常に有難かった。私の判断基準は「5年後に万が一再度転職するとして、その時に自分がどれだけ人材として魅力的になれるか」だった。この点について2人のキャリアコンサルタントさんに伺ったところ、2人とも(株)エリートネットワークさん経由の会社を強く薦められた。これを読んでいる皆さんにも、そのようなアドバイスを親身になってしてくれるキャリアコンサルタントさんを見つけておくことを強くお勧めします。もちろん、(株)エリートネットワークさん経由の会社に内定いただいていなければ、私は(株)エリートネットワークさんに同じ質問をしていたと思います。

とにかく、こうして期間としては4カ月、実質1カ月で私の転職活動は終わりを告げ、来月から(株)エリートネットワークさん経由の会社にお世話になることになった。この転職活動では、多くの会社にお断りされ、心が折れそうになったこともあったけれど、最後に良縁に巡り合えて幸運だったと思う。

私の好きな銀色夏生さんの言葉に「世の中はバランスとタイミング」というのがある。今回の転職活動ではそれを強く感じた。求人内容と自分のバランスと、求人が出るタイミングと、他の候補者がいるかいないかのタイミング。それだけではなくて、本当にたくさんのバランスとタイミングがマッチして転職が叶ったのだと思う。これを読んでいる皆さんには「いくら断られてもきっと良いバランスとタイミングの案件が待っている」と思って心を折らずに進めることをお祈り致します。

最後に担当コンサルタントさんだった横関さんに感謝の念を伝えたいと思います。
私の人材要件とマッチする求人情報を多く紹介していただき、書類選考通過率も全紹介会社中でトップでした。他社さんと比較しても圧倒的に面倒見が良く、土日にまで気にかけて連絡を頂いたのは精神的に助かりました。最終的に横関さんにご紹介いただいた企業に決まったので、まさに「幸運の女神さま」ですね(笑) 本当にありがとうございました。

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