一部上場 不動産ファンド運営会社 総務・人事部 次長
一部上場 総合商社 法人営業職
→ 外資系 コンサルティング会社 経営コンサルタント
→ 民事再生会社 清算業務責任者 (元・経営企画部長)
梅宮 新治 氏 43歳 / 男性
学歴:名古屋大学 法学部 法律学科 卒
TOEIC 860点
中小企業診断士
「弊社の民事再生計画案にご賛同頂けますようお願い申し上げます。」
勤務先である一部上場 不動産会社の経営企画担当部長を務めていた私は、大手総合商社からコンサルティング会社への転職に際しお世話になった高橋部長とのご縁から、中途採用担当者として(株)エリートネットワークとの取引を始めた結果、勤務先の民事再生申し立てに伴い(株)エリートネットワークに不良債権を作ってしまいました。
4年半前の冬、高橋部長を訪問し冒頭のお願いを申し上げたところ、「今後どうされるのですか?」 との反応。当社の民事再生計画は2つの新会社に4分の1の社員と共に一部事業譲渡し、残った資産を処分して債権者に弁済を行った後に会社を清算するという計画でしたが、数千億の不動産が残っており、清算業務が難航するのは自明のことでした。民事再生申し立て以降、債権者への最大弁済・社員の雇用の最大化を目的として全ての情報を掌握し、対策を検討・実行する民事再生PJ事務局を務めていた私は、「しばらくの間は清算業務に携わりたいと考えておりますが、将来転職するので、その節にはよろしくお願い致します。」 と回答し、民事再生計画案にご賛同頂きました。
民事再生計画案が債権者から承認され、清算業務の責任者として約40名の同僚と共に清算業務をスタートして4年が経過し、資産処分の進展に伴い社員の転職を促し、私は唯一人の社員として清算業務を行っておりました。不動産市況が低迷する中での物件売却、担保権者の抵抗、株主訴訟、債権者委員会との攻防など通常滅多に経験することの無い倒産実務を行い、最終弁済の実施・清算業務の完了が見えて来た時点で最大半年の期限を設定し、自分自身の転職活動を開始することになりました。
転職活動を開始するに際し、「何をしたいか」、「どうなりたいか」 の将来に向けた軸と過去の 「実務経験」 をベースに大きく二つの方向性を考えました。一つは倒産前に行っていた経営企画や社内BPR等の事業会社での管理部門のポジション。 もう一つは清算業務を行う中で勉強し、培った実務経験を活かせる事業再生のポジションです。
他方、倒産から5年弱が経過し43歳になっていた私としては、「そもそもポジションがあるのか?」、「年齢・希望年収でどの程度制約を受けるのか?」 を広く検証するために会員制有料転職情報サイトに登録し、まずは募集案件の動向を調べることにしました。このサイトは、求職者が興味のある募集案件に応募するだけでなく、職務経歴、年齢、希望年収等を登録することで、登録したエージェントや企業が条件検索を行い、マッチする候補者にアプローチする仕組みが備わっています。
募集案件を検索してはっきりしたことは、40歳を超えると分野を問わず相当の実務経験が求められる、経営企画という職種は30代後半までの求人が多いとの2点でした。そうこうするうちに私の経歴を検索したエージェントから 「紹介案件があるので面談したい」 との連絡が届くようになりました。「とりあえず情報収集」 との目的で登録したサイトでしたが、募集案件を見て若干弱気になりかけていた私としては、「とにかく話だけでも聞いてみよう」 との気持ちからエージェント数社との面談に向かいました。
これまで業務上、(株)エリートネットワークを始めとするエージェントとの付き合いはありましたが、自身のことで、ネットの情報を元にいずれも初対面のエージェントと話をするのは、大分勝手が違います。上述の二つの方向性や、希望条件などをある意味大胆に話が出来る一方で、「本当に伝わっているのかな?」 との疑問も生じますが、疑問を解消するだけの時間はなく、「こういう案件がございますが、ご興味ございますでしょうか?」 とサイト検索で予め目星をつけていた案件を提示されると、「興味あります」 との回答になりますし、「では応募するということで宜しいでしょうか?」 と問われると、「よろしくお願いします」 と回答してしまいます。
こうした流れで3つのエージェントを通じ都合10社程度に応募しました。結果、面接まで進んだのは2件のみ。殆どは書類選考で弾かれてしまいました。概ね事業会社の経営企画ポジションでは年齢が高いこと、事業再生ポジションは外部コンサルタントとして事業再生に関わった経験が無いことが主因でしたが、中には落ちたのか通ったのかの連絡も無い案件もありました。面接まで進んだ1社は最終面接で落ち、残った1社は事業再生コンサルティング会社が自己資本を投じた地方の会社に常駐し経営管理を行う案件でしたが、当時買収交渉中とのことで、買収交渉が進展するまでホールドという状況でした。
転職サイトに登録しエージェントと会い始めてから1ヶ月半が経過した時点で、10社近くの選考に落ち、手持ち案件は状況次第の1社のみという状況の一方で、清算業務は最終弁済日程を固めるなどいよいよ会社清算に向けた最終段階に入っており、即ち私が職を失う期限がはっきりと見えてくる中、「こんな流れに任せた転職活動ではなく、本腰を入れなければならない」 と思い返し、高橋部長に相談のメールを入れましたところ、早速 「面談しましょう」 とのご連絡を頂き訪問することとなりました。
まずは、転職サイトに登録して既に転職活動を開始していたことを詫び、応募先のリストと結果を伝えたところ、書類選考で落ちた会社に言及され、「応募に際してエージェントから募集の背景を伝えられましたか?」、「この案件ではどの程度の年収レベルを想定していると言われましたか?」 など転職サイトからアクセスしたエージェントから伝えられていなかった情報が次々に伝えられ、「そもそも応募する先では無かったんだな」 と気付かされます。
また、唯一の進行中案件については、「こういう案件では、そこそこの年収が提示されるでしょうが、5年後、10年後にどうなっているか想像できますか?」、「私見ですが、今後安心してキャリアを重ねられる会社ではないと思います。根無し草になってしまいかねません。」 とはっきり言葉にされます。
「現時点でご紹介できるのは・・・」 と案件を提示しながら、「勤務地に希望はありますか?」、「初年度年収はどの程度まで認容できますか?」、「奥さんは大丈夫ですか?」 と十数年前、最初の転職時に話したプライベート情報、業務を通じて話をした内容に基づき話をして頂けるので、わざわざ自己アピールをする必要も無く、しかも思いつきで話したことは即座に深掘りされて収斂され、これまでの面談では感じることの無い 「伝わっている感」 と共に数社のショートリストが作成されていきます。
これまで応募したものの回答が得られていない先への確認までご提案頂いた後、「最後に一つだけお願いです。今後の応募は全て当社に任せて下さい。決まるまで責任を持って対応させて頂きます。」 と告げられたことを受け、「承知致しました。どうぞよろしくお願いします。」 と応じました。これまで転職サイトからアクセスしたエージェントに発した言葉とは異なり 「本音でお願いする」 気持ちと伴に。
高橋部長を訪問して数日後、一部上場不動産サービス業の経営企画職での面接が入った旨連絡を受けました。自身が中途面接の面接官であった経験に基づき、面接官にとっての書類選考時の期待、面接前後の業務状況に左右されない受け答えのポイントを逆説的に捉え何を準備すべきかを考えました。その結果、短時間の面接であっても 「会社のこと、課題を把握していますよ、課題解決に向けた経験を持っていますよ」 とのアピールを行おうと決め、開示財務諸表をひっくり返しての連続財務諸表の作成、同業他社比較・マクロ動向に対する業績感応度を算出し、IR情報を経年で読み返し会社の状況、中長期の課題把握を行いました。
高橋部長からは募集の背景、面接官のキャラクターについての追加情報が提供され、1次面接に臨んだところ即日通過で次は役員との最終面接とのこと。高橋部長から1次面接官に 「何か気になることは?」 と問合せされたところ 「論理的過ぎる」 との所見が寄せられました。その時は 「あの発言がそう思われたのかな?」 などと思いながら、「修正します」 と答え、より短時間であろうと想定される役員面接でのインプレッションを高めるべく企業分析の精度を上げていきました。
迎えた役員面接は30分程度でしたが、外部環境に左右される会社の課題と考え得る対処の方向性、自身がその対処を実行できることを示す実務経験を一通り伝えることが出来たとの実感をもって終了しました。面接当日、高橋部長より電話があり 「今日の面接、如何でしたか?」 との問い掛けに「一通り伝えられたと思います。」 と回答したところ、「あの、どうしても御社に入社したいと伝えましたか?」 との反応。どうだったっけ? と考えていると、「先方には第三者的に 『お手伝いしますよ』 としか伝わらなかったようです。スキル的には何も問題無いものの、気持ちが伝わらなかったとのフィードバックがありました。」 と伝えられました。
それまで転職サイト上での案件検索、選考通過等の作業の中で、経験・スキルを伝えることばかりに気を取られていた私にとって、ハンマーで頭を殴られたような衝撃的な言葉でした。新卒採用が佳境に入り面接官が学生の感情的な自己アピールを多く聞いている時期だったと想定される背景を差し引いても、今回の転職活動で 「入社したい」 との熱い思いを伝えるとの発想が全く無かったことに気付かされました。よく考えてみると4年間の清算業務において 「法律をバックにした合理的なお願いや交渉」 はすることがあっても、「何かをしたいとの自分の感情や想いを伝えること」 の機会が無かったことに思いが至り、ビジネスライクなコミュニケーションしか出来なくなっていることに気付かされたのです。
ホールドとなっていた事業再生コンサルティング会社から呼び出しを受け、買収交渉が暗礁に乗り上げたためポジションが無くなったことを告げられる一方、高橋部長にアレンジ頂いた数社の面接を重ねながら時間が過ぎていきます。
そうした中、ある日の夜10時過ぎ、高橋部長からの電話を受けました。「夜分、恐れ入ります。上場不動産関連会社で経営陣から課題解決のため、人材を探しているとの連絡が今入ったのですが、私としては経験を存分に発揮でき、将来性のあるポジションだと考えます。」 とのお話。
現勤務先の倒産前に、部門長達と生き残りの条件を検討した際に、「賃料収益を生まない現物不動産を売却して借金を返済しバランスシートを縮小する、当座は賃料収益だけで食べていけるようリストラを行う、不足する資金を増資によって賄う」 といった方向性を考えたものの、時既に遅しという苦い経験があったのですが、ご紹介頂いた先は正にこの通りの経営方針で外部環境の変化を見事に乗り越えてきた会社です。
また、経営陣の人柄、募集の背景、会社の風土につき30分以上かけて説明頂き、自分が働く姿を想像した上で 「是非ともよろしくお願いします。」 とお伝えしました。
その後3回の面接がありましたが、都度面接官の方のキャラクター、経歴等をご教示頂き、入念に面接準備を行うことが出来ました。いずれの面接も、型どおりの面接ではなくこの4年間の出来事をお互いの時間軸の中で共有するような話が続き、将来に向けた会社の課題、期待役割を伝えて頂く中、「是非とも私をその作業に加えて下さい。」 との思いを言葉にして繰り返しました。
これまで受けてきた中で、間違いなく自身が 「最も入りたい」 と考えたポジションでしたので、この数ヶ月の失敗を思い返し、相手の視点に立って自身の思いをどうやって伝えるかを考えましたが、高橋部長からは 「その場の流れを見て、自然体で臨めば大丈夫ですよ」 と仰って頂き、いい意味で肩の力を抜いて面接に臨むことができ、結果内定を頂くことが出来ました。
会社にとって必要な人材をピンポイントで探す中途採用は、求職者にすればタイミング良く求めるポジションが見つかるかが大きな要素だと思います。しかし、自身では良いポジションだと思っても、募集要項に出てこない背景、相性といった要素は客観的な目を持って冷静に判断しないと見誤る原因となります。転職サイトでの試行錯誤は 「可能性をしらみつぶしに当たる」 行為でしかなく、「現実感を伴う転職活動」 ではなかったと思い返しています。
即ち、ネットショッピングで本を買うように興味あるポジションに片っ端から応募するのではなく、自身が働く姿・将来像といったものを実感できる先を選定して応募する必要があり、その実感を得るためには、自身を理解してくれる一方で、応募先の事情に通じたエージェントを見つけて任せられることが重要です。最初の出会いから12年を数える高橋部長とのご縁の中、3回の転職経験において2回お世話になることとなりました。
その期間、自身の転職機会だけでなく業務上のお付き合いもあってのことですが、高橋部長以上に私の強み弱みを理解して頂いたエージェントはいなかったと痛感しています。それ故にお任せしてからは、あれこれ注文をつけることなく、期限が切られている中でも焦らず、ある意味鷹揚に構えることが出来ました。最初に転職サイトに登録してから5ヵ月半が経過しましたが、振り返ってみるとこの期間は通常業務から離れた4年半の間に失った感性豊かなコミュニケーション能力、相手の立場に立ち流れの中で判断する感覚を取り戻す機会だったと考えています。
今回の転職経験で得た気付きを踏まえ、新しい職場で第一線に復帰できる喜びを噛み締めています。