日系シンクタンク 社会インフラ部門 シニアコンサルタント
霞が関勤務 国家公務員 総合職
安原 芳人 氏 29歳 / 男性
学歴:東京大学 法学部 第二類(公法コース) 卒
今回、(株)エリートネットワーク様の御支援により、初めての転職活動を無事に終えることができました。
担当いただいた転職カウンセラーの松井様とスタッフの皆様に厚く御礼申し上げるとともに、霞が関・官僚の過酷な労働環境がメディアでもクローズアップされる昨今、自分と同じような境遇に置かれた方々にとって少しでも有益な判断材料になればと思い、この『転職体験記』を執筆させていただきます。
豊かな日本を次世代に引き継ぐための仕事がしたい。それが私が新卒で就職活動をしていた際の思いでした。
そのためには官民を問わず様々な道があると思いますが、学生時代に海外の学生との交流に打ち込んだ私は、安全保障や国際環境の悪化に問題意識を持ち、普通の生活が守られる世界にしたい、異なる価値観が混在する国際社会において日本の存在価値を高め、世界の平和に貢献したいと思い、国家公務員の道を選択しました。
入省した官庁では、幅広い業務を担当し、留学や在外公館での勤務といった貴重な経験を積むことができ、成長しているという実感もありました。閣僚の通訳を担うほどの語学力を身につけることもでき、大きなやりがいを感じる瞬間もありました。
そのような中で私が転職を考えるに至ったのは、省内での立場が若手から中堅へと移りつつある中で、自分の仕事に対する思いや人生に対する価値観と、目の前の仕事との乖離が徐々に大きくなっていく現実から目を背けることができなくなったからでした。
すなわち、今の霞が関は国民の負託に応え、社会を良くするための「政策の企画・立案」と呼ぶに相応しい仕事ができない、あるいはできたとしてもその割合が極めて限定された状況にある点です。
具体的には次の3つの要因があると思います。
① 異常な働き方:増え続ける業務量に見合う人員が配置されず、人権侵害とも言える長時間労働(「過労死ライン」を大きく上回る残業)が常態化。
国会対応(突然呼び出される「問取りレク」(※国会議員を往訪して質問通告の趣旨を直接確認しに行くこと)や深夜早朝に及ぶ答弁作成作業、国会議員や政党からの依頼への最優先での対応)、「主管争い」(※ 部署間での仕事の押し付け合い)、その他膨大な雑務への対応等、目の前の非本質的な「作業」で手一杯となり、(幹部はともかく)若手職員には勉強や政策を考える時間などほとんどない状態。
② 仕事の変質:政治主導の流れもあり、重要な課題ほどボトムアップの政策形成よりも、上で決められた解を遂行することに重きが置かれ、ヒエラルキーの中で過剰な忖度・調整・根回しを含む「やらされ感」のある仕事が大部分を占める。
また、ネットで世界中が繋がった現代において、もはや霞が関の情報の独占もなく、先進的なテーマは民間や市民社会での議論が先行している面がある。
③ キャリア形成の困難:総合職として様々な部署で経験を積んでいくモデルとはいえ、かつてない人手不足の中で人事ローテーションを回すことが至上命題となる中、「配属リスク」が大きく、自分が希望するキャリアパスを歩むことができる可能性は低い。年功序列で、裁量のある幹部ポストへの昇進に必要な勤続年数は増加の一途。
その上、コロナ禍を経て世の中がリモートワークの活用を含む柔軟なワークスタイルに舵を切る中、私自身、効率的に仕事を進めることを心がけていましたが、霞が関におけるデジタル化の遅れ、旧態依然とした対面・紙文化への執着は顕著でした(ただし、これは個々の職員というよりも、国会を含む制度上・構造上の問題も大きいと思います)。
終身雇用の崩壊と中途採用を含む人材の流動性の増加、ジョブ型制度の導入を含むキャリアパスの多様化、若年層の待遇向上、副業奨励といった労働市場の大きな変化の流れの中で、責任感溢れる若手層の搾取への依存から抜け出せない霞が関に留まることの機会費用は大きく、自分の限られた時間とエネルギーをもっと前向きで創造性のあることに使いたいという思いが強まっていきました。
そこに子供の誕生というプライベートでの変化もあり、家族と共有する最も大切な時間が、今後理不尽に奪われることは耐え難いという思いも加わり、転職を決断しました。
転職のための情報収集を始めてすぐに目に止まったのは、エリートネットワーク様のHPに掲載されていた、私と同じような理由で霞が関を去られた方々の『転職体験記』でした。
転職カウンセリングを申し込むと、すぐに松井様から御連絡をいただきました。学生時代に学んだ内容からこれまでの職務経験に至るまで丁寧にヒアリングしていただき、私の希望が叶えられそうな業界の状況等を詳細に教えていただきました。
同時に、自分の中でもこれまでのキャリアの「棚卸し」と、今後自分が取り組んでいきたい仕事について思考を深め、転職活動における軸を整理していきました。
転職活動に際しては、より良い日本を次世代に残したいという新卒当時の志に立ち戻りつつ、キャリア形成において自主性が尊重されること、自分がこれから取り組んでいきたいと考えるテーマで専門性を深めていけること、そして、ワーク・ライフ・バランスを確保するための柔軟なワークスタイルと両立できることを最も重視しました。
こうした点も考慮した上で、シンクタンク・コンサルティング業界を志望することを決め、10社程度にエントリーしました。知名度の高い企業だけでなく、必ずしも一般に広く知られていなくても優れた企業がある中で、幅の広い志望先候補を提示していただけたのがとても有り難かったと思います。
面接では、どこの企業様も私の転職を決断するに至った経緯を丁寧に聞いてくださったのが印象的でした。
また、面接の前後を含め転職カウンセラーの松井様には随時アドバイスやフォローをいただき、安心して臨むことができました。最終的に、私の思いを一番まっすぐに受け止めてくださった一社に絞り、内定をいただきました。
当該企業は、社員の自主性、働く場所や時間に囚われないフレキシブルな働き方とチームワークの力で社員の最良のコミットメントを引き出すことを全面に掲げているシンクタンクであり、私の転職活動における軸とも合致していました。
貴重な御縁をいただけたことを心から有難く思っています。
転職活動における反省点を挙げるとすれば、複数の企業様との面接を繰り返すうちに自分のやりたいことについて徐々に思考が深まり、知識も深くなっていったため、初めからもっと掘り下げて考えておけば良かった、ということでした。
当初志望度が高かった企業様の面接を最初にアレンジしたものの思うように結果が出ず、多少の後悔もありました。
しかし、それぞれの面接を通して自分自身との対話や情報収集を積み重ねたプロセスに意味があったのだと思いますし、結果として御縁のなかった企業様との面接もかけがえのない財産になったと、今では思っています。
国家公務員を退職するにあたっては、苦楽を共にした同僚やお世話になった上司、国民に対する裏切りではないかという罪悪感との葛藤もありました。しかし、これまでの経験を活かしつつ、努力を積み重ねていくことができると信じる新たなフィールドで活躍することができれば、それが自分の成し得る最大限の社会貢献であると確信し、気持ちがブレることはありませんでした。
今後は、新卒以来お世話になった職場への感謝の気持ちを胸に、より良い日本を次世代に残したいという初心を忘れずに、今回の転職の選択が正しかったと胸を張って言えるよう、新天地で努力していきたいと思います。