東証プライム上場 大手鉄鋼メーカー 海外事業部 課長
東証プライム上場 総合酒類メーカー 人事部門、マーケティング部門
⇒東証プライム上場 グローバル食品メーカー マーケティング部門
岡山 咲季 氏 39歳 / 女性
学歴:私立 女子高等学校 卒
早稲田大学 卒
2000年代の女子大生というのは、今よりももう少し画一的だったのではないだろうか。
街中にはフェミニンど直球な「エビちゃんスタイル」が溢れ、「めちゃモテ」がキーワードだった。「他人から見た私がいかに愛される存在だと思われるか」という、他者評価を重視していた時代と言い替えてもいいのかもしれない。
早稲田という蛮カラな大学に所属する、典型的な体育会気質のワセジョだった私は、そうした女子像を求められることには懐疑的だった。
不文律で男子学生が取り組むとされていたことにも、少しずつだが機会を見つけては積極的にチャレンジしていた。そしてどんなに前例がないことでも、本質を考え一つ一つ積み上げていけば、必ず自分にも出来るという体感を得た。
そうして就職を考えるようになった頃、就職企業選定の軸に据えたのは「貢献に手触り感が持てる老舗企業」だった。
調べられる業界はすべて調べ、最終的に消費財、しかもビール会社に収斂されていったのは、帰結としては必然だったのかもしれない。
負けず嫌いとチャレンジ精神・学習意欲は、いつでも私の行動原理である。
なお老舗企業としたのは、体育会ならではの「伝統の襷を次の世代につなげる」感覚をビジネスにも敷衍したからである。
歴史のある企業は長く紡いだビジネスと社風がある。その中での仕事ならば、自分が勤めている間だけではなく、後継されることでその先の未来の組織・ビジネスにも貢献出来るものではないだろうか。
「これまでの社員の想いの連なりを感じられる社風が重要」と考えたことは、短絡的と言えば短絡的、しかし意外に本質をついているのではないかと最近考えているのだが、理由は後ほど述べることとする。
<新卒での経験>
「伝統の襷」マインドは、入社直後の配属面談で早速発揮されることになる。
「会社が持つ背景を体得したい。その上でビジネスに取り組み、長く社会と会社に残せる価値を生み出したい。そのために “ 会社のことが一番よく分かる部署 ” に配属してほしい」と申し入れた。
入社2週間でこう宣った生意気な新入社員に、人事部門への配属で応えた人事部はさすがだと思うのだが、確かに会社のことがよく学べた。
人事部門での経験で、とりわけその後のキャリアに影響したのは、入社2年目から子会社の立ち上げに参加した経験である。
この子会社では本社営業本部の部長が社長を務め、課長たちが子会社の部長として社長を支えていた。そして全国各地の現場管理には本体の営業・マーケティングの実務に長けた係長たちが選出されていた。
エース集団の彼らに日々相対するだけで、当時の私にとってはストレッチであった。早朝に出社し、終電で帰宅する生活を続けても、到底彼らの業務品質に追いつけない。追いつこうと奮闘していたことが今となっては可愛らしいが、当時は自分だけ満足な仕事が出来ていないのだから死に物狂いである。
そんなある朝、7時頃だっただろうか。この子会社の社長に聞かれたことがある。
「君はどうして朝早くから仕事をしているの?」
私はこう答えた。
「今はルールも何もなくて、私は小さなことでも一つ一つ考えて物事を進めていかなければなりません。人事が前例を作ると、それがルールになってしまう可能性があるから注意が必要です。
でも会社の人事部門としては、この状態がいいとは思えません。今のメンバーが例え誰もいなくなっても問題なく会社が経営出来るように、人事部門としては全体を理解して整備していかなければならないと思っています。
そのために会社というものを理解したいんですが、それ以前に経験が無さすぎて分からないことが多くて……それで時間が掛かっています」
働き方に無駄が多いと指摘されるのかと構えていたのだが、社長は笑った。
「そうだね。経営っていうのは、社員の生活を引き受けていることでもある。例え細かな規程を決めることであっても、真摯に考える必要があるね。こちら側にいる時に大事なのは、真摯にフェアでいることだよ。」
本体のビール社で人事を学び始めた私には、不完全な出来立ての子会社はすぐに本体に合わせて是正すべき部分が多くあると見えていた。
しかし社長との会話で気づかされたのは、経営として先行きが見えない時にどうあるべきかということである。決して前例踏襲が正解ではないのだ。
目の前にあることに真摯に向き合う。ステークホルダーが誰なのかを考える。その上でフェアに経営する。
入社2年目の私に経営の視座を以て、「君の業務には “ 社員の生活を引き受ける ” という責任がある」と示唆してもらえたことを、とても感謝している。
またこの頃は本社の会議に参加することも多く、役員とも会議後の飲み会等で雑談することがあった。
その時に本社の社長から言われて心に残っているものがある。
「組織の中で、人は様々なことを言う。そして社長は孤独だよ。君は天命を信じて人事を尽くしなさい。」
最後に判断するのは社長である自分。その判断の責任はこの一身にあり、誰かとシェア出来るものではない。
仲間意識の強いビール会社では特に強くそう感じられたのだろう。
そして「人事を尽くして天命を待つ」のではなく、「天命を信じて人事を尽くす」。
経営的に言うなら「バックキャスト」なのだろうが、この時以来、私は「仕事において、何を天命として信じるか」を考えるようになった。
仕事をする上で求められる、普遍的な価値や姿勢とは何か。
両社長がただの若手社員の私に折々に話して下さったことは、稀有な財産となって今も私の中で大切に育まれている。
<マーケッターとしてのキャリア>
その後マーケティング部門に異動することとなり、一度転職もし、消費財マーケッターとして13年ほどキャリアを積むことになった。
これほど長く1つのことに取り組めたのは、ひとえにブランディングから「消費者のちょっとした幸せを作る実感」を得られたからに他ならない。
店頭で推奨販売をする時のお客様とのやり取り、SNSへの書き込み、直接頂くお手紙。
それらから垣間見える「消費者のちょっとした幸せ」の積み重ねがブランドを強化し、長く会社を支えることになると信じることが出来た。
マーケティングで経験した業務は多岐に亘る。
海外から商品を買い付ける “ バイヤー ” 業務、“ ブランディング ” 業務、調査も踏まえながらの “ 商品企画 ”、資材の調達・発注、生産・需給調整、CMを企画する “ 宣伝 ” 業務、パブリシティを企画する “ 広報 ” 業務、飲食店・小売店共に店頭販促施策を企画する “ トレードマーケティング ” 業務、膨大なPOSデータを分析して小売店に棚割を提案する “ リテールサポート ” 業務、お客様からの問い合わせに対応する “ カスタマーコミュニケーション ” 業務……。
ヒット商品・プロモーションにも恵まれ、「こうすれば消費者の心を動かせる、売れる」というヒットの感覚が自身の中で確立出来たことは意義があった。
しかし、私にとってより得難い経験となったのは、商品に関するプロジェクトマネジメント業務に習熟出来たことである。
特に2社目に勤めた食品メーカーは、全社的にマーケティングがハブとなって業務を進める体制を取っている企業だった。
そのため多くの取引先・関連部署との調整を経験することで、「まず様々な視点を聞く」「自身が思うゴールも踏まえて、あるべき姿を考え直す」「折衷案ではなく、ビジネスとして最適解を出す」というサイクルを高速で多く経験することが出来た。
時に最適解が、誰かの主張を全く汲み取らないという結果になることもある。自部署の非を詫びなければならない場合もある。
そうした時に相手の納得度を高められるか。厳しい応酬になる場面でもフロントに立ち続け、対話の努力が出来るか。
このように真摯に取り組む経験を多く得たことが、今の私の素養になっていると捉えている。
直近は海外駐在の機会を得て、経営戦略に挑戦していた。
生まれ育った国と異なる食習慣のエリアで、日本とはプレゼンスが比べ物にならない外資の小規模な企業として、いかに消費者に受け入れてもらえるか。限られた原資でどうビジネスを大きくすればいいか。
見回せばグローバルジャイアントと呼ばれる競合の大企業の存在感は大きく、地政学的リスクの影響も大きい。
今何をすべきか。今決断することは、何年先に実現出来るようになるか。今のフォーキャストのリスクはどの程度か。最悪のシナリオでも、そのリスクは吸収出来るのか。アライアンスの可能性はあるのか。消費者の嗜好の変化はどうか……。
検討すべきことは国内のマーケティング実務よりも遥かに難易度が高くかつシビアで、常に楽しかった。
また会社のサイズが小さいことが奏功し、経営判断が与えるインパクトがどういったものなのかを体感出来た。
常に真摯に、天命を考え、決めたら信じてアウトプットにこだわる。上司であるDirectorと共に異国の市場を俯瞰し、実地も調べ回って考え抜いたことは、今までのキャリアの中で最も難易度が高かった。しかし最もエキサイティングだった。
海外でビジネスをするにあたって、ソフトパワーに偏るマーケティングだけではビジネスの成功は難しい。
ビジネスを創り出す経営能力がなければ、そもそも長く世の中に貢献出来る企業を残していくことすら出来ない。保守的で排外的な法律が次々に発効される中で、日本企業として存続出来ない。
この危機感を得たことは、私のキャリアの転換点だったと思う。
再度国内のブランドマーケティングにアサインされたことはありがたかったのだが、海外赴任で感じたビジネスパーソンとしての危機感から、引き続き経営能力を磨く機会を得たい気持ちを捨てることが出来ず、転職を考えることとなった。
前述の通り、私には「経営に携わる機会を得たい」という軸があった。
しかし私は経営戦略畑ではなく、年齢と経営戦略の経験が見合わない。
また経験した2社はいずれも消費財である。そのため、自身では消費財以外への転職は出来ないのではないかと当初考えていた。
だが、転職活動を始めてみると、想定していなかった業界にご推薦頂くことが出来た。
そこで業界の軸は取り払い、各企業の選考を出来るだけ受けながら、自身がどういった貢献が出来るか今一度考えてみることにした。
反省としては、持ち前の「真摯に取り組む」が一部裏目に出たことである。
「お声がけ頂いたものは全部選考を受けてみよう!」と思い立ったは良いものの、1日で3件のWEBテストを受けなければならなかったり、3件の面接をこなさなければならない日があったりと、とにかくスケジュールの負担が大きかった。
(株)エリートネットワークの転職カウンセラーの篠原様とも、日本への帰国便に乗るその日に面談をしたこともあった。
いつもバタバタしている候補者だったかと思うが、温かい目で看過頂き、ペースを合わせてサポート頂いたことに感謝している。
そうした今回の気づき・学びを端的に言うならば、「客観的なアドバイスを踏まえて、キャリアを見直すのも一つの方法」である。
よく言われていることかもしれないが、やはり思いがけない出会いにつながることがあるのだ。
最後に、意外に新卒で得た縁は自身の本質を捉えていたものではないかと考えた、その背景を。
今回ご縁のあった企業の方は、当初からなんとなく馴染みのある感じがしていた。
お話しているとどうも前職のビール会社と似ている。職場も見学させて頂いたが、いよいよ雰囲気が似ている。
最終面接の場でも役員の方に社風についてどう捉えているかお伺いしてみたのだが、「ゆったりしている」とのことだった。
売上規模が大きく、投資回収タームも消費財とは異なるからこその鷹揚な回答だったのかもしれないが、前職のビール会社はこうも言われていた。「ビール4社の中で1番のんびりしている」。
良し悪しもあるだろう。しかしビジネスは人である。企業人としてビジネスをする中で、馴染みやすい(だろうと思える)企業かどうかは、中途入社組としてキャッチアップからパフォーマンスにつなげていく上で重要であると私は思う。
「選考の中で感じられる、企業の社風も大切に」。
転職を考えている方にお伝え出来るささやかすぎるtipsとして、つぶやきを残して筆を置くことにする。
そして私はこのご縁が天命と信じて、これからも人事を尽くすのみである。