一番大きく変わったことは、経営の中心が「株主」から「人材」になったことです。顧客は然ることながら、企業価値を上げるための人材(社内の人材・当社を取り巻く人材)が経営の根幹であり一番大切であることを、経営者が社員に対して明確に公言するようになりました。社員自身もその変化を感じているのでしょう、社員の士気が高まり、一人一人の表情が益々明るく、社内の動きも以前より機敏になったと感じています。この好変化は、業績好調という形でも明確に経営数字に表れていると思います。
二つ目の大きな変化は、改革にチャレンジし易くなったことです。目先の利益ばかり追うのではなく、企業価値向上に結びつく、中・長期的な戦略をスピーディーに、且つ、思い切って決定・実行できるようになりました。その代表例が、2006年に実施した販売代行会社(株)ワールドストアパートナーズの人事制度の大改革です。当社では、最前線である店頭で働く販売員のことを「Dresser:ドレッサー」と呼び、その地位の向上に努めています。これまで、我々の業界では「販売員」は、パート・アルバイトで雇用されることがほとんどでしたが、他社に先駆けて約5000名の正社員化に踏み切りました。正社員登用の実現で年間約26億円のコスト増になりますが、当社の将来を見据えた際、大きな価値があると判断しました。この決断は、非上場だからこそできた革新的な決断だと思います。
また、生産改革にも着手しようとしています。SPA(アパレル内蔵型製造小売業)の強みを活かして、週次で店頭と同期化させることで、販売される分だけ供給できる仕組みを構築するために、生産から調達、物流までの商品に関わるすべての流れを一気通貫で繋げていく戦略で、これには本格的な投資が必要となります。この改革に着手できるのも非上場ならでは。改革を決断するスピードも、実行するスピードも格段に早くなりました。
この話の原点は、5年前。(株)ワールド社長の寺井が全国7拠点を訪問して方針説明会を開催した際、最後の質問コーナーで絶えず出ていたのが「人事」に関するもので、全質問内容の9割を占めていました。
「一生懸命働いていますが、どうしたら正社員になれるのですか?」
「お給料は、いつ上がるのですか?」
………
事態を深刻に受け止めた社長の寺井から、より深く現場の声をヒアリングするようミッションを与えられた私は、公聴会と称して全国7拠点を訪れ、店長クラス以上の計2000名と向き合い、思っていること・感じていることを素直に全部話してもらう機会を設けました。各地で率直な意見がたくさん集まり、内容を分類・分析して一番多かったのは、「この先もずっと販売職を続けていきたいが、雇用形態はアルバイトのままなのか? 将来、正社員になる道はないのか?」という質問。「どういう基準で給料が上がるのか?」という報酬(賃金)・評価体系に関する質問も多かった。SPA業態において、顧客の生の声を集めることができる店頭は最重要ポジションです。現場のドレッサーが売上を立ててくれるお蔭で、ワールドグループの経営が成り立つのですから。私も社長の寺井同様、これは非常に大きな問題であることを強く認識し、「販売員」という職種に対する処遇・位置付けを見直さなければならないと感じました。
そこで、今何が必要なのかを考え、まずは人事改革に着手しました。まず最初に、人事制度を分かり易いものへと改正することから始めました。アパレルの販売会社で人事制度が整備されている会社は、実に少ないのが現状です。他社を見ても昔からの流れで、慣例に任せて何となくやっている部分が多いので、まずはそれを整えることと、当社の人事理念を明文化できるようなシステムを作りたいという思いから、「3C SYSTEM」という制度を導入しました。
「3C SYSTEM」とは、『Cute:キュート【人事制度基本フレーム】』 『Choice:チョイス【選択制人事制度】』 『Co:シーオー【福利厚生】』の頭文字を取った人事制度です。
『Cute』 は、Career up and total education の略で、会社からどのように評価され、どうキャリアを積んでいくのか。またそれをバックアップするための制度全般のことです。ドレッサーにとって一番働き易い会社を目指すべく、当社には「人を育てる意志がある」ことを示し、人材育成カリキュラムや、教育体制を明確に打ち出しました。また、現場の「どうしたらお給料が上がるの?」という疑問の声に応え、評価制度を導入しました。販売会社としては珍しく、半年間の働き・評価によって賞与が決まる成果主義を採用し、給与についても同様に1年間の評価により決定される仕組みを取り入れました。年齢が上がれば給与が自動的に上がっていく年功序列制度ではなく、能力・成果に応じて報酬が変動する合理性に基づいた仕組みなので、本人のやる気や自分の努力次第で、いかようにもキャリアアップが可能ですし、会社からはチャンスもどんどん与えます。
『Choice』 は、その名の通り選択を意味し、当社が展開する100以上の各ブランドに対する自身の興味や、今後歩んでいくキャリアを自ら選択できる制度のことです。可能な限り自らの意志で選択できるように、との思いから、新店舗の店長や新ブランドが立ち上がる際のドレッサーは、社内で「公募制度」として募ります。また、社員の約9割が女性ですが、結婚後、もしご主人の都合で転勤になっても「自己都合転勤制度」を活用した店舗間異動で、継続的に勤務ができる環境を提供しています。結婚・出産・育児等、個人のライフスタイルの変化に合わせて雇用形態や働く時間を選べる「フレックスワークスタイル制度」の導入や、育児で一旦退職した人が再就職できる「再雇用制度」も用意しています。
『Co』 は、共同・共通・相互の意を表す接頭語で、チームの仲間がお互いにベターライフを送るための福利厚生制度全般のことです。
アパレル業界の販売員は、自ブランドの洋服を着用して接客を行い、自分自身がお客様のファッションのお手本となる事も多い仕事です。例えば、ヤング系ブランドを扱っている店舗では、年を重ねてターゲットから外れた時点で、そのブランドで働き続けることは難しくなり、他社のミセス系ブランドに転職せざるを得ないという状況に置かれていました。そういった背景が、販売員を正社員として受け入れるリスクを高めていたのです。いくら素晴らしい制度を整えても、アルバイトという不安定な地位に変わりがなければ、離職率は相変わらず高いままだと思い、「採用」・「定着」をキーワードとする人事戦略を打ち出し、アルバイト・パートといった有期雇用から、安心して末永く働き続けられる無期雇用の「正社員登用」に踏み切ったのです。 改革に着手した1つ目の理由は、当社の成長戦略による店舗数の増加。現在、(株)ワールドでは全国で2000店舗以上を展開しており、毎年約400店舗が純増しています。1店舗5名×400店舗=2000名の新たな販売員が必要となる背景があります。今後も計画的に店舗数を増やしていくので、更に人数が必要になる予定です。2つ目は、圧倒的なブランド数の多さです。当社のブランド展開は、ヤングからキャリア、ミセスまで幅広い年代や志向をカバーしています。ヤングブランドを扱えなくなっても、他社へ転職せずに当社が展開するミセスブランドへの異動が可能なので、企業側としても正社員で採用するリスクはありません。優秀なドレッサーを失うことなく、当社内で安心してキャリアを構築していただける構造です。
今後、日本社会は少子化で人手不足となり、優秀な人材の取り合いになるでしょう。そのような状況において、新しい人を採用していくことも重要ですが、キャリアを積んで来た既存メンバーが辞めずに続けられることが、何より大事だと考えています。この新制度を導入して一番良かったことは、経営と現場の距離が縮まり信頼関係が生まれたことです。現場のドレッサーが元気だからこそお客様に満足いただけ、結果として売上が上がるのは必然で、これが現在の好業績にも繋がっていると思います。
当社では、業務サイクルを週次で管理しています。1週間毎に、どんな商品が売れているのか?その商品は何故売れたのか?次もその商品は売れるのか?を繰り返し検証し、在庫管理、追加生産を行っています。昔のように「これは売れるだろう」といった大量に作った商品を、売りべらし(ある程度“勘”でさばく方法)たり、感覚論で決めるのではなく、店頭で顧客の生の声を聞きながら、必要な商品だけを追加生産しているので、不要在庫が増えることがありません。見込み生産をしていないので、当たり・はずれが少ないのです。これは、当社MD(マーチャンダイジング)の仕組みと、それを運用している人の力のお蔭。お客様が望んでいないものを、いくら一生懸命作っても続かないので、顧客の声を確実に吸い上げるMDの力によるところが非常に大きいと考えています。
(株)エリートネットワークは、当社の「文化」「社風」への理解が"深い"と感じています。社員の能力・パフォーマンスは、企業文化に合うか合わないかで大きな差が生まれます。当社の企業文化が肌に合う、というベースの上で求めるスキルを保有している優秀な方を紹介して下さるので、非常に助かっております。それが御社の一番の強みではないでしょうか。我々企業側が候補者と向き合って面接をする時間は限られていますから、候補者の方と普段多く接しておられる紹介会社さんの目利きに頼る部分は大きいのです。ですから、どこの紹介会社経由で来られた候補者の方か、というのはとても重要なのです。当社との付き合いが浅いということは、当社への理解も浅い場合が多いので、お付き合いの浅い紹介会社経由の候補者の方とは繰り返し面談させていただきますが、(株)エリートネットワーク経由の方とは、何度も面接を重ねなくても候補者の質が十分保証されている信頼感が魅力だと思います。
個人プレーヤーではなく、チームプレーヤー(チームとしてどう成果を上げていくかを考え、実行できる人材)を好みます。一人でできる仕事には限界がありますからね。特に当社のような、商品を企画して~モノを作って~販売するという連携作業が伴う業態においては、チームプレーヤーでないと、いくら個人的な能力が高くても馴染みません。社内は明るいし、社員同士は仲が良い。足の引っ張り合いなんて勿論ありません。そんな中に価値観の違う人が入って来たら、すぐに浮いてしまいますから。
先述の通り、当社の文化・社風といった価値観に合うチームプレーヤーかどうかを一番重視します。面接時に、候補者と当社の価値観を擦り合わせることが、結果として双方の幸せに繋がると思っています。人間の価値観とは、今まで育って来た環境で形成されるものですから、入社後に教育したところで変わりません。価値観のベース合わせは絶対条件で、その上で、求める要件に見合う能力とスピード感を備えた人材を採用したいと考えています。
若手・第二新卒の方に対して求めるものは、何と言っても素直なこと。素直な方は伸びます。
幹部候補の方に対しては、自身が築いて来られたキャリアに“奢り”ではなく“自信”を持ち、御輿を据える(動かない)管理職型でなく、自ら率先して動けるプレイング・マネジャーを求めます。自分の身体は動かさずに、ただ指示を出しているだけの方は、当社の社風には合わないと思います。
当社グループでは障がい者雇用に力を入れており、特例子会社の認定を受けた(株)ワールドビジネスサポートという事務アウトソーシング会社があります。この会社では、今年の4月から杉並区の公共施設で障がい者の方が働く、喫茶店を運営しています。また、2004年に開催された、アテネ パラリンピックの女子車椅子マラソンで優勝した金メダリストは、畑中 和という、この(株)ワールドビジネスサポートの社員です。
併せて、高齢者雇用の場も積極的に創り出していきます。最近、(株)ワールドストアパートナーズでは、販売系では最年長となる67歳のドレッサーを採用しました。長年の人生経験から、お客様の接遇に非常に長けており、配属された店舗で彼女は早くもトップセールスだそうです。
今後も、CSR(企業の社会的責任)を果たすべく、雇用の場の創出を続けていきたいと考えています。